第2話『入学式』
校門を抜けると、新入生で賑わっていて騒がしくてしかたなかった。
地元から少し離れた場所にある清秀高校には、地元の中学からは誰も入学する人はいなかった。だから、慶はこの高校を選んだ。
知り合いが1人もいない中…いや、知り合いという程じゃないが、知っている女子が1人だけいた。
見渡すが、やはりあの子の姿はない。
そこら辺の女子より、1つ飛び抜けて可愛い美少女だったのですぐに見つかると思ったのだが。
少し遠くの方で先生と思う背の高い男の人が何か叫んでいた。
「生徒手帳にもクラスは記載してあるが、忘れた人はこのクラス表を見るように!」
当然のように慶は生徒手帳を持ってきていないので、クラス表が貼られたボードへと向かう。
クラス表のボードを1組から見渡し、自分の名前を探すが見あたらない。
1組なし…2組…なし…
3組を見ると、『出席番号1番 赤羽慶』と書かれた自分の名前を見て、また大きなため息をついた。
「嘘だろ。あいつと同じクラスかよ」
肩を落としながら生徒手帳を見つめていると、いいアイディアを思いつく。
そうだ。あの先生に、この生徒手帳を渡せばいいんだ。「落ちてました」と言えば、どうとでもなるだろ。
思い立ったが吉。慶は、背の高い先生に向かって歩き出したが、横から坊主の集団が割り込んできた。
「こんちわっす!」
坊主の集団は、何やら先生と会話を始め、少し待ってみたが会話が終わることはなく。
また、ため息をついて、教室へと向かった。
高校入学初日に、これだけため息をつく事ばかり起きるこれからの高校生活に不安を抱えながら教室に着く。
教室に入る前、今日一番のため息をつき、恐る恐る教室の中を見渡すが、あの子の姿はなかった。
少し安堵した慶は、自分の席に着く。
席に着くなり机に伏せ、入学式まで電車の中で摂取できなかった睡眠を取ろうとしたが、後方からバカデカい声がしてきた。
この声に聞き覚えがあり、チラッと後を見ると、やはり、さっきの坊主集団だった。
その中の1人と目が合ったが、すぐに目をそらして机に伏せた。
教室内は騒がしかったが、その中でも、坊主集団は騒がしく、寝れる環境ではなかった。
イライラがどんどん募り、爆発しそうになった時、教室のドアが開く。
「お前達ー。なんか、入学式があるみたいだから廊下に並べー」
なんだ先生か。…ん?この声は…まさか。
顔を上げると、今朝の派手なスーツを着た女性が立っていて、慶と目が合うとニヤリと不敵な笑みを見せた。
「今朝のエロガキじゃないか。なんだ、私の生徒だったのかよ(笑)」
ちょ、何を言いだすんだこの先生は!?
そんな事、言うと…
「エロガキ?」
「エロガキ?」
「え、なに、どうゆうこと」
ほら…こうなる。
「エロガキ?」がこだまする中、もう一人の先生が顔を出した。
「山吹先生!新入生を虐めるのはやめて下さい!」
「福原先生、これはコミュニケーションですよコミュニケーション(笑)」
山吹という、よく教師になれたなと思う先生と、まだ制服を着れば学生と間違われそうなロ…小柄な先生が言い争いを続ける。
「あのぉ…」
1人の生徒が先生達の言い争いに割って入る。
「入学式が始まりますよ?」
「ん?あぁ…それもそうだな(笑)ほら、福原先生のせいですよ(笑)」
「何言ってるんですか!山吹先生のせいですよ!」
まだ言い争いを続ける先生達に呆れた生徒達は、各々教室を出て、体育館に向かった。
慶も、その生徒の波に紛れて教室を後にし。
お願いします神様。どうか、あの山吹って人を俺のクラスの担当にしないで下さい。
そう、神に祈りながら体育館へ向かう慶。
「はい〜並べ〜。私がお前ら3組の担任を務める山吹だ。山吹様って呼べよー」
神様って、本当はいないんだな。
列の先頭でため息の記録を更新していると、山吹と目が合った慶に山吹は口パクで。
「エロガキ」
それと同時に体育館の中から、「新入生入場!」と、外までハッキリと聞こえてくる大きな声が響く。
1組から順番に入場し、3組の番となり、先頭の慶が体育館の中に入ると、新入生入場より大きな声で、
「慶!こっち見て!」と、聞き覚えがある声が保護者席から聞こえてきた。
かーさん…勘弁してくれよ…
保護者席は笑いに包まれ、前を歩く山吹を見てみると、肩が震えているのが分かった。
眠気が襲い、睡魔と闘いながら入学式は順調に進み、最後の生徒代表挨拶が始まる頃、慶は半分夢の中にいた。
「新入生代表挨拶。1年3組、
「はいっ!」
教師席から立ち上がった白雪。その時、半分夢の中の慶は、聞き覚えのある名前に。
しらゆき…ましろ…白雪!?
強制的に夢の中から戻された慶は、壇上で一礼し、顔を上げた白雪の顔を見て、今朝のあの女子だとすぐに気づいた。
慶はちょうど壇上の真正面に座っていて、このままではバレると思い、少し顔を横にした。
一礼した後、白雪は何かを見つけたように、目を細めて何かを睨みつけた。
恐る恐る壇上に目をやると、今にも飛びかかりそうな目つきで白雪がこっちを見ていた。
新入生代表挨拶がなかなか始まらない事に体育館はざわつきだしたが、それに気づいた白雪は口を開く。
「し、新入生代表挨拶」
ざわつきは収まり、体育館の全ての目線が白雪に集中する。
「…です。最後になりますが、今日、ここに集まった156名の同級生達と、どの高校よりも高校3年間を楽しみたいと、ここに誓います。新入生代表挨拶。1年3組、白雪真冬」
白雪が一礼し、顔を上げると、体育館は拍手で埋め尽くされ、拍手のオーケストラと化していた。
それもそのはずだ。
夢を純粋に抱き、未来への希望を力強く誓った1人の少女の姿に胸を打たれない人はいないだろう。
その中に唯一属さない慶も、周りの雰囲気に押され、微力ながらオーケストラに加わった。
壇上から白雪が降りても、拍手は収まらず、
拍手が収まると、新入生は退場し、それぞれの教室へと向かった。
体育館を出た慶に春風がいたずらをしてきたが、左頬は痛まなかった。
「あいつ、ましろじゃなくて、まふゆって名前なのか」
ポケットの中にある生徒手帳が気になりながら教室へと向かう。
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