第3話 昼、オムライスなんだ
「……好きな動物とかいる?」
汗がたらりと頬を伝う。
私は少し考えてから、答える。
「人間……とか?」
「あ………そう」
私の隣に座る灰色の毛をなびかせる狼男は私の答えを聞くと、興味をなくしたのか食べかけのコッペパンを食べ始める。
私は返答に失敗したことを痛感しながら、弁当を食べる。
学校の中庭。
二三人がまとまって、昼食を食べている。
弁当の具材を交換したり楽しそうにするなか、謎の緊張感に包まれながら私、曽根崎未有は友人の花織薫と狼男の影月瓏と昼食を食べていた。
小さいベンチに、右から薫、私、影月で座っている。
会話が続かず、沈黙が場を支配する。
なぜこうなっているかと言うと、事の発端は、30分前。
「ねぇねぇ未有ちゃーん」
四限目の終わり、私がトイレに行こうと席を立ったところに気持ち悪い猫撫で声で友達の花織薫が話しかけてきた。
私は不快さを前面に出した顔を向ける。
「キモすぎ」
「キモがりすぎ」
にこりと笑いながら、くるりとカールした髪を触る。
あ、嫌な予感。
私は一歩後ろに下がる。
薫が髪を触るときは、決まって言いにくい話又は頼みをするときだ。絶対にろくな話じゃない。
薫は意を決したように私を見る。
「昼、影月君と食べない?」
「絶対ヤダ」
薫はそこをなんとか!と手を合わせる。
教室でそれはやめてほしい。
目立つから。
「未有まだ図書室のやつ引きずってんの?大丈夫!そんなんみんな忘れってっから!」
「やめろ!大声で言うな!!」
「お願い!一生のお願い!!!」
「はいそれ、14回目!!今年で14回聞いたんですけどー」
薫は今度こそマジ!大マジだから!!
とわめいている。
正直一生のお願いだろうと、あの狼男と一緒に昼食を過ごしたいとは思わない。
どちらかと言うと、こちらが食べられそうだ。
というのは半分冗談だが、私は前にあの狼男こと影月瓏の前で少しはずかしーいことをしてしまいそれ以来彼の顔を見ると羞恥心で自分を殴りたくなるのであまりというか以前よりも関わりを持たないようにしている。
元々関わりなんてそんなになかったし、別に変わらないが、一週間は薫も謎に気を遣って図書室に誘うことはなくなった。
が、週が開けた途端これだ。
全くこの女は。
どんだけあの狼男に突っかかれば気が済むんだよ。
土下座する勢いの薫を呆れ半分感心半分見る。
「……とりあえずお花摘みに行っていい?」
薫は元気よく頷く。
「オケ!トイレ行こ!!」
で今現在。
私はそのまま中庭に連れられ、ぼっち飯をかましていた影月に遭遇。
ベンチに一人座る影月に謎に元気よく話しかけに行った薫の昼食隣いいですかの提案をこれまた謎に了承した影月。
いざ隣に座ると、緊張したのか私と場所を変えてと要求してきた。
ふざけんなと言いたかったが、影月がいる手前出来なかった。
まぁ、一緒に食べるのはまぁとりあえずいいとしよう。
こいつが狼なのも、正直どうでもいい。
大事なのは、こいつが恥ずかしい私の行動を思い出してしまうトリガーであることと、こいつが怖いくらい無口で、なんか喋ったと思ったら意味がわかると怖い質問みたいなやつをしてくることだ。
やっぱり、こいつ怖い。
弁当を食べながらする質問が、好きな動物?
せめて好きな食べ物だろうが。
しかも私には貴方が狼に見えるんです!!
そんな中、カモノハシやらうさぎやら言って、ふーん美味しいよねとか俺は人間とか言われたらん反応困るだろうが!!!!
いろいろから回って人間とか言っちゃった自分を殴りたい気持ちになる。
さぁ、と風が頬を撫で私を冷静にさせる。
そうだいろいろ考えても意味なんてない。
ただ今はこの母が作ったうまい弁当をただ美味しく頂こう。
私は気を取り直し、弁当に向き合う。
綺麗な黄色の卵に赤色のケチャップでワンポイント。
スプーンをいれると中のチキンライスが見えてくる。美味しそう。
口に一口。幸せの味が口の中に広がる。
好きな食べ物オムライスにしようかなと思うほど、今日のオムライスは美味しく感じられた。
「……オムライス」
低い声が隣から聞こえる。
声の主はもちろん、狼男。
狼男は何を考えているかよくわからない目でじっと私のオムライスをみている。
「未有のオムライス美味しそうだよね!一口ほしい!」
薫があーんと口を開く。
薫の弁当を見るともう弁当は空になっていた。おそらく沈黙に耐えきれずひたすら弁当を食べていたんだろう。それにしても早いが。
私は断る理由もなかったので、弁当をそのまま渡す。
薫は目をぱちくりさせていう。
「全部くれるの?」
「なわけあるかい!一口だけだよ」
「いただきまぁす」
大きな一口。
薫は美味しそうにオムライスを頬張る。
口をもきゅもきゅさせてるのがリスを思わせる。いや、やっぱりカモノハシか。
「美味しいー!ありがと未有」
「薫口デカすぎ」
少し苦情を言って弁当を受け取る。
私も残りのオムライスを食べ進める。
「………」
「………」
「………」
沈黙。話題がなくなり、すぐにこれだ。
これに懲りて二度と一緒に食べようなんて言わないでほしい。
心の中でそう願いながら、私は黙々とオムライスを食べ進める。
ちらり。
視線を感じ、隣を見ると何故かじっと黄色い瞳が私の黄色いオムライスを見つめていた。
………寄越せと?
牙の隙間からよだれがだらり。
「……あーいる?食べかけだけど」
私が聞くと、影月は少し目を見開く。
少しの間の後、こくりと頷く。
私ははいと弁当箱を渡す。
すると、狼男は意外に器用にスプーンを持ち口に入れる。
黄色の瞳がきらりと光ったように見えた。
瞬間何かに火がついたようにオムライスを口の中にかけこむ。
狼男は食べるのが早かった。
返されたお弁当の中は綺麗に空。
私は魂のない笑顔を向ける。
「あ、ありがとう」
……やっぱりこいつは狼男だ。
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