第2話 図書室、2人きり?
「影月君って、好きな食べ物なにー?」
クラスの女子の質問に、狼男は長い沈黙の末答える。
「……………肉」
「やっぱ肉だよねー!!」
ねーと盛り上がるクラスメイトたち。
私はその輪から外れた席から生暖かい目で彼らを見る。
肉って、人肉じゃないだろうな。
影月瓏を名乗る狼男は、無口な男だった。
話しかけられない限り滅多に話さず、常に一人。
時々仲良くなりたい女子達が話しかけるが、会話が続かずリタイアするのが日常になっている。
やはり狼男はイケメンなのか、他クラスでも彼の話題が絶えないらしい。
全く、私には理解できない。
そう、私の目に映るのは鋭い瞳と灰色の毛だけだから。
撫でたら気持ちよさそうだとは思う。
だが、怖くてそんなことはできない。
だって狼だし。
危うい質問をする女子達に少し危機感を持てと言いたい。多分間的にもタブーの質問っぽかったし。
まぁ、あまり関わりたい相手ではないので、
私はこっそり持ってきた漫画を開いて読むことにする。
それに気づき、輪の中にいた薫がつられて寄ってくる。
「お、なになに何それ」
「バチロア」
「さいこー」薫が私の隣に座る。
「何巻?」
「2」
「序盤じゃん!!」
「私読むの遅いんだよ」
私は薫が見えるように机の上に漫画を置いて読む。
バチロアは、バチバチのかっこいいアクションシーンが見どころのバトル漫画で薫からすすめられて今読んでいる最中だ。
でもかなり面白い。少年漫画らしい熱い男の友情とかもあってそこがかなり好感が持てる。あと私の好みのヤンチャ系のイケメンがいるからより良い。
金髪、ピアス。吊り気味の目。
二次元だから許される美貌。
実際こんな奴はいない。
かっこいいと思える男はそうそういないし。
内面も、外見も。
「あ、こいつ影月君に似てる」
薫が開いていたページに乗っていたキャラを指差す。
長髪サラサラ髪のイケメン。
切れ長の目にはバサバサの長いまつげ。一瞬女かと間違えるほどの美貌を持つキャラクター。
こいつに影月瓏は似ているらしい。
前もゲームのキャラクターをみてそんなことを言っていたが。
私は体を後ろに向け、女子に囲まれている影月をみる。
黄色の瞳は、昼間でも鋭い光を放っていて、少し威圧感がある。
うん、やっぱり私には狼にしか見えない。
私は狼男から漫画に視線を戻す。
薫は私に聞こえるようにわざと大袈裟にため息をつく。
それがわかっていたので、わざと私は何も聞かず漫画を読み進める。
主人公とヒロインポジの女の子が出会うシーン。
「はぁ」
二人が言い争う。仲間がそれを仲裁。
「はぁ」
言い争い中に敵キャラが現れる。一時休戦して二人で戦う。
「はぁ!!」
「……何!!?」
私は若干キレ気味で、薫を見る。
薫は私が反応したことに満足してにこりと笑う。
「あのさ、うち図書委員になったやん」
「うん、それが?」
「理由、聞いて?」
私は不満を精一杯顔で表現する。
薫は圧をかけるように聞いて?ともう一度言う。
これは聞くまでめんどくさいことになるな。
私は観念して聞く。
「なんでー?」
「影月君も図書委員になったからー!!」
「知ってたけどね」
同じクラスだし。
委員決めの中、影月が図書委員に立候補するや否や女子たちが即座に立候補しはじめ壮絶なじゃんけん大会の末、見事薫が図書委員の座を勝ち取ったのだ。
あの時の女子たちの顔は、まさに虎。
私や一部の女子含め、男子は皆引いていた。
薫は嬉しそうに笑う。
「あーどうしよう。今日から早速仕事あるんだよー」
「へー頑張れ良かったねおめでと」
私は早く漫画を読みたくて、話をそこで無理矢理終わらせる。
「冷たくない!!?」
「別に」
「あーいつもか」
「失敬な」
薫は拗ねたように唇を尖らせる。
「……羨ましさのあまりのたうち回って欲しかったのに」
何言ってんだこの女。
思わず白い目を向ける。
薫は少し考えるそぶりをした後、私をみてにこりと笑う。
悪い予感。
「未有も今日放課後図書室来てよ」
「えやだ」
私は即答する。
部活にも委員会にも入らなかった私にしか与えられていない特権、それは早く帰れることだ。それを無駄にするなんて、あり得ない。
早く帰ってゴロゴロしたい。
それは全人類の願いだろうが。
そんな私の思いをバサリと薫は切り捨てる。
「は?うちもやだよイケメンといきなり二人きりとか緊張で吐きそうだから本の一冊でも借りたりしてうちを助けてよ。どうせ帰ってもゴロゴロするだけなのに、親友のこと見捨てるってマ?」
有無を言わせない気迫に私は、はいと頷くしかなかった。
××××××××××××××××××××××××××××××
放課後。
私は渋々薫と共に図書室に来ていた。
うちの学校の図書室では、本を借りる時、カウンターに行って図書委員もしくは司書の先生が本についている学校のバーコードを読み取って貸し出しをする。
入り口付近の貸し出しカウンターで薫と狼男は二人で並びたち、私が本を選ぶのをじっとみている。
私以外図書室に人がいないから。
カウンターで貸し借りの手続きをするくらいしか仕事がない為、自然と本棚の近くにいる私に目が行くのは分かる。
だが、二人はただじっとこちらを見つめているのだ。無言で。
真面目かよ。
私も何か借りなきゃと思うじゃないか。
薫をジト目で見ると、薫はパクパクと口を動かす。
た・す・け・ろ
知らんがな!!!
てかこっちの台詞だわ!!
イケメンだ何やらはしゃいでたくせに二人きりになると怖気付いたらしい。
私は正直帰りたかったが、親友のためを思い、仕方なく適当に目に入った漫画を手に取りカウンターに持って行く。
後で何か奢らす。
「貸し出し、お願いします」
私が言うと、獣の鋭い瞳がこちらを見る。
近いと余計に目に映る。
やっぱり私の目に映るこいつは狼だ。
獣の瞳は感情が読みにくい。
なぜか沈黙が流れる。
影月は私の目をじっと見ている。
なんだか目を逸らしたら負けな気がして、私も見つめ返す。
一二分、くらいの沈黙だったが、体感は一時間くらいあった。
沈黙を破ったのは、狼男。
「…………漫画は、持ち出し厳禁」
「あ、はい」
「くっっっそ恥ずかったんだが!!?」
私は図書委員の仕事を終えた薫に向かって訴える。
あの後赤くほてる顔を隠しながら逃げるように図書室を出た。
そのまま家に帰りたかったが、薫から後少しで終わるから待って!と引き止められたため私は図書室の外で図書委員の仕事が終わるのを待っていたのだ。
薫はごめんごめんと片手で謝る。
「あれはーごめんだけど笑ったわ。影月君もおもろいし未有もおもろかった!おかげで少し影月君とも話せたしーマジ未有さんさまさまっす!!」
「さいっあく」
私をダシに使うな。
「新作フラッペおごる!」
「許す」
やっぱり持つべきものは友だった。
どこが一番混んでいないか調べながら図書室を後にしようとした時。
すっと横を狼男が通り過ぎる。
何も言わずスタスタ歩いていく後ろ姿を見て、少し腹が立つ。
なんか言えや。気まずいやろがい。
狼の尻尾が制服のズボンからはみ出しているのが見えた。
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