第2話.きっかけ

4月の初め。なんとか2年生に進級して、始業式で校長先生の長い長い話を聞きながらうたた寝をしていた。そのうちに校長先生の話が子守唄と化し本格的に眠ってしまい気づいたときには始業式は終わっていた。

「ふぁ〜。よく寝たよく寝た。」

「本当によく寝てたね」

教室に戻って大きな伸びをしていると突然後ろから声をかけられた。

「あっ!さくらちゃん!」

「やっほー。相変わらず校長の話長かったね」

「ほんとだよ〜。あんなのみんな寝るでしょっ!」

「真依ほどガッツリ寝てる人はいなかったけどね」

「そんなことないです〜。てか、私そんなに寝てないし!!」

「はいはい。」

嘘です。ガッツリ寝てました。校長先生の話なんて子守唄だったし、他の先生の話なんてもちろん聞いていない。担任の先生の発表ですら…

「あっ!!!」

「うわっ⁉︎なに⁉︎」

「担任の先生って誰⁉︎」

担任発表を聞き逃していたことを思い出し勢いよく聞く。「やっぱり寝てたんじゃん」なんて言うさくらちゃんの言葉は聞こえないふりをして話を続ける。

「担任の先生って大事じゃん⁉︎先生によっては今年1年間楽しめない可能性が…」

「落ち着きなよ。てかそんなに気になるなら寝るなよ」

「うがっ…正論パンチ…」

「なんか見たことない先生だったよ。若い男の人。」

「正論パンチをかましときながらちゃんと教えてくれるさくらちゃんさすが!すき!」

「わー。うれしー」

「見事な棒読み…」

ガラガラガラ…

そんな話をしていると突然教室のドアが開いた。

「はーい。みんな席について〜」

そう言いながら若い男の人が入ってきた。

はっ!この人がさっきさくらちゃんが言っていた担任の先生か!!

言われた通りに自分の席に座って担任の先生だと思われる男の人をまじまじと見つめる。

ふむふむ。なかなかかっこいいのでは?

そんなことを考えていると若い男の人が自己紹介を始めた。

「このクラスの担任をさせてもらいます、有栖蒼太です。数学を担当します。えーと…今年から教師になった新任なので優しくしてくれると嬉しいです。」

なんとも新任の先生らしい初々しい自己紹介に思わず可愛いと思ってしまった。

「何か質問とかあったぜひ聞いてください!」

しーん…

みんなもう高校生だからなのか、新学期の新しいクラスになったばかりだからなのか誰も手を挙げない。有栖先生も気まづそうな顔をしている。

「はーい。」

なんだか可哀想になって手を挙げてしまった。

「好きな食べ物はなんですかー?」

「あ、えっとアップルパイが好きです。」

私が質問をすると静まり返っていた教室がざわざわとしだした。そこからはみんな緊張が解けたのか質問ラッシュだった。しばらくすると質問タイムも終わり、その後は生徒の自己紹介をしたり先生の話を聞いたりして解散になった。

「ふぁ〜。疲れた〜」

さっさと荷物をまとめて帰ろうと歩きだしたとき、有栖先生から声をかけられた。

「生田真依さん。」

「えっ?なんですか?」

「さっき、質問してくれてありがとう。」

さっき…?質問…?あぁ!気まづい空気になりかけてたときのことか。

「いえ、別に私が気になったから聞いただけですよ。」

そう言うと有栖先生は少し驚いた顔をした後

「ふふっ。そっか。でも、ありがとね。生田さんみたいに優しい子がいてくれてよかった」

と言ってニコッと微笑んだ。

その瞬間私の中に何かがぶっ刺さった。

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