3. 若さですか?
「ところで、どうして私を助けてくださったのですか?」
「ボロボロの女の子が流されてきたら、助けて当然だ。
君、十歳くらいだろう?」
ライアス様が死にかけていた私を助けた理由が気になって問いかけると、そんな答えと質問が返ってきた。
確かに私は背が低くて、義妹のコリンナと同じくらいだ。
でも、流石に十歳に見られているとは思わなかったから、軽くショックを受けてしまう。
「私、十六歳です!
そんなに小さく見えるのですね……」
「まさかとは思うが、十分に食事を摂れていなかったりしないか?」
「一日一食とれれば良い方でしたけれど……何か関係があるのでしょうか?」
「それが原因だな。栄養が足りないせいで、成長出来ていないのだと思う。
今からでも遅くないから、しっかり食事は摂るように!」
そう口にしながらライアス様が立ち上がると、さっきまでは私の視線と同じ高さにあったお顔が見上げるほどの高さになった。
私の背が低いからなのかライアス様の背が高いのか分からないけれど、なんだか羨ましい。
「そろそろ侍女が帰ってくる頃だから、食事が出来るまではゆっくりして大丈夫だ」
「分かりました」
私が答えると、ライアス様は部屋を出て行ってしまった。
少し遅れて人の気配が二つに増えたから、侍女さんが帰ってきたのだと思う。
そう思っていると、慌ただしい物音がしばらく続いて、今度は包丁で何かを切る音が聞こえてきた。
この部屋には暇を潰せるような物はないし、まだ立てるほど力も入らないから、料理の音を聞きながら食事が来るのを待った。
「お待たせ致しました。かなり量は少ないですが、これ以上召し上がられると危険とライアス様が判断されましたので、我慢してください」
少し申し訳なさそうに口にする侍女さんは、私が追い出された家のようなメイド服ではなく、簡素なワンピースにエプロンをかけていた。
このお屋敷には制服が存在しないみたい。
「危険……? どうしてですか?」
「極端に栄養が不足している状態から食事をすると、身体が驚いて最悪の場合は亡くなってしまうそうです。
なので、少しずつ食べられる量を増やしていきましょう」
「分かりました……」
お腹いっぱいになるまで食べられると思っていたのに、出てきた料理はお皿の半分も満たされていない。
お母様が元気だった頃はこれの倍は食べていたから、きっと物足りなくなると思う。
でも、死にたくは無いから我慢だよね。
我慢なら何年も続けてきたことだから、難しくない。だから大丈夫。
ちょっとだけ残念だけど。
「いただきます」
「お口に合うか分かりませんが、どうぞお召し上がりください」
「……すごくおいしいです。ありがとうございます!」
料理を口にしてみると、とろりとした触感が広がった。
歯ごたえは小さくて味も薄いけれど、こんなに美味しく感じるのは初めてだ。
久しぶりに食べるご飯って、こんなにも美味しいのね……。
そう思うと感動で目が熱くなってしまう。
けれど、半分も食べないうちにお腹がいっぱいになってしまった。
「ごめんなさい……もうお腹いっぱいで食べられそうにないです」
「畏まりました。ご無理をなさる必要はありませんので、少しずつ食べられる量を増やしましょう。
ライアス様が釣りから戻ってきたら、相談されることをお勧めします」
「分かりました。本当にごめんなさい」
「どうかお気に病まないでください。私は怒ったりしませんので」
「ありがとうございます」
本当に失礼なことだと思うけれど、お腹がいっぱいになったら今度は眠気が襲ってきて、侍女さんが部屋を去ってからすぐに私は意識を手放した。
◇
「おはよう。よく眠れたか?」
「おはようございます、ライアス様。もう戻ってきていたのですね」
久々にぐっすりと眠れた気がするけれど、外は明るいまま。
だから長い時間は眠れていないと思う。
「ああ、釣りのことか。
それなら昨日の夕方には戻っていたぞ」
「昨日……?」
「何を勘違いしているのか分からないが、エリシアは昨日の昼から今までずっと眠っていた。
夕食の時には起こしたが、ついに朝まで目を覚まさなかったな」
どうやら私は一晩中眠っていたらしく、すっかり朝になってしまったらしい。
夕食の時間に起きなかったのに、ライアス様も侍女さんも笑顔で見守ってくれているから怒ってはいないみたい。
「ごめんなさい、夕食を無駄にしてしまって」
「心配しなくても大丈夫だ。余った分は俺が食べたからね。
それより、身体は楽になったか?」
「はい! 今なら歩くことも出来そうです!」
「それは良かった。少し外の空気を吸いに行こう」
そんな言葉をかけられたと思ったら、ライアス様に手を差し出された。
一瞬ためらいそうになったけれど、気遣いに応えない方が失礼だと思ったから、ライアス様の手を握る。
綺麗な肌からは想像できない逞しい手を頼りながらだけれど、私は久々に自分の足で移動することが出来た。
「しっかり歩けているな。正直ここまで早く回復するとは思わなかったよ。
これが若さか」
「失礼ですが、ライアス様はおいくつなのですか……?
お年を召しているようには見えませんけれど」
「今は十八歳だ。エリシアより二歳年上だな」
ライアス様も十分若いはずなのに私の回復力を羨ましそうに見ているから、彼は回復力が落ちてしまっているのかもしれない。
まだ若いのに、なんだか可哀そう。
そう思うと、今の私が恵まれているような気がした。
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