4. 強いみたいです
玄関は私が居た部屋からすぐのところにあったから、あっという間にお屋敷の外に出ることが出来た。
私がお屋敷と思っていたこの建物は、想像していたよりもずっと小さな普通の家。
それなのに私が過ごしていた部屋はかなり広々としていたから、ライアス様が私を優先してくれていたのだと思う。
彼が床で眠っていたのは、きっと眠れる部屋が一つしか無いからだと思う。
貴族の中でそこまで出来る人は知らないから、ライアス様は本当に優しい人だよね。
けれど、その優しさにいつまでも甘えるのは良くないと思うから、動けるようになったら色々なことを手伝おうと思った。
ずっと侍女の仕事もしてきたから、ライアス様の機嫌を損ねることは無いと思う。
けれど、今はまだ一人で歩くことも出来ないから、早く治すことに専念しなくちゃ。
「少し肌寒いな。これを羽織った方が良い」
「ありがとうございます」
「こちら側は森だが、反対に行けば湖が見える。
行ってみるか?」
「はい!」
庭をぐるりと回って家の裏側に向かうと、途中で穏やかに流れる川が目に入った。
きっとこの川を辿ってここまで来たのね。
この国の地理については少しだけ勉強したけれど、屋敷の場所から湖までは馬車で半日はかかる距離。
街道が無いから、安全に移動しようとすると二日はかかってしまうから、この川には絶対に落ちてはいけないと教わったのよね。
「この川、こんなに穏やかだったのですね」
「ああ。お陰でよく釣れるよ」
「釣れる……?
もしかして、ライアス様は魚を釣って生活しているのですか?」
「釣りは趣味だから、生活には関係ない。
ただ、美味しい魚が釣れたら食べることもある」
「そうなのですね! 魚料理楽しみです!」
貴族で釣りなんて趣味を持っていたら、親が良い顔をしないと思うけれど、こうして楽しめるのなら少し羨ましい。
私には趣味なんて無いから、ここで過ごしていると暇を持て余してしまいそうだもの。
「それなら、今日のうちに大物を釣れるように頑張るよ」
そんな言葉を交わしながらぐるりと家を一周したのだけど、これだけで私は疲れ切ってしまった。
息は上がっていないけれど、足に力が入らない。
「ごめんなさい……立てなくなってしまいました」
「分かった。失礼するよ」
正直に伝えると、ライアス様は嫌そうな素振りも見せずにしゃがんで、私を抱えてくれた。
次の瞬間には一気に視線が高くなって、さっきよりも遠くの景色が見える。
足が地面についていないから少し怖いけれど、いつもと違う景色が見えて楽しい。
けれど楽しい時間は一瞬で過ぎて、私はベッドに下ろされてしまった。
「ありがとうございます。重くなかったですか?」
「どういたしまして。
軽すぎてますます心配になったよ」
「……頑張ってお肉つけますね!」
「焦る必要は無い。食べられるようになれば、自然と本来の状態になる。
無理をすると体調を崩すから、ゆっくりで良い」
「分かりました」
それからはベッドの上でゆっくりと休んで、お昼になったらお腹いっぱいにご飯を食べて、またのんびりと過ごす。
屋敷では想像もつかない過ごし方をした。
けれど、そんな時。私は大事なことを思い出した。
「ライアス様、私を探している人がいると思うので、無事を伝えさせてください」
「エリシアは川に落とされたのだろう? 無事を伝えたら、また殺そうとされるはずだ。
今は死んだものと思わせておいた方が良い」
「確かにそうですよね……。でも、クビにされた侍女達が私のために助けを呼んでくれたのです。
だから、侍女達にだけでも無事を伝えたくて……。お義母様達は永遠に後悔すれば良いと思っているので、絶対に教えませんけど」
お義母様達にはずっと辛い思いをさせられて、色々なものを奪われてきた。
もしも虐められなかったら、私は今頃素敵な婚約者様と出会って、幸せな日々を送っていたと思う。
背丈だってこんなに低くならなくて、お母様と同じくらいになっていたはず。
お父様は背が高いから、お母様の背を抜かしていたかもしれない。
自由に歩いて、自分の目で色々なものを見ることだって出来た。
勉強も頑張って、色々な知識も身に着けていたはず。
……色々考えてみたけれど、義母様達を恨まない理由なんて欠片も無い。
だから、元気になったら酷さを思い知らせようと思う。
負けっぱなしは嫌だもの。しっかりと決着を付けなくちゃ。
「情報はどこから漏れるか分からないから、義母達に煮え湯を飲ませたいのなら隠し通した方が良い。
もしもエリシアが復讐を望むのなら、喜んで協力しよう」
「お気遣いありがとうございます。今は隠すことにしますね。
復讐は……元気になってから私がしますから、お気持ちだけ受け取ります」
「エリシアは強いな」
「強くはないですよ。ほら、腕なんてこんなに細いですから」
「そういう意味ではない。
これだけの目に遭っても、自分だけの力で立ち向かおうとしているところが強いと言ったのだ。
二度も言うと告白しているようで恥ずかしいな……」
恥ずかしそうにしながら、そう口にするライアス様。
その様子が面白くて、私は久々に笑顔を浮かべた。
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