第13話 家庭訪問
「陽向くーん? ちょーっと私とお話ししよっか? 大丈夫、怖くないからねー」
「いや怖いよ?! 柴乃、一旦落ち着いて!」
全身から真っ黒なオーラを醸し出し、陽向くんに近づこうとする柴乃を、俺は全力で陽向くんから引きはがす。
「えーっと、陽向くんだったね。おr‥‥僕は陽向くんのお姉ちゃんの彼氏じゃないんだ」
俺は陽向くんの前でしゃがみ込み、できるだけ優しい口調と笑顔で陽向くんに話しかける。
「じゃあしのお姉ちゃんのかれしさん?」
「陽向くん、よく分かってr――」
「ううん、全然違う」
ドヤ顔でうんうんと頷いている柴乃の言葉を遮り、俺はきっぱりと笑顔で否定する。
「でもお姉ちゃんが『お姉ちゃんに男の子の友達はいないから、もし男の子を家に連れてきたら、それはお姉ちゃんの彼氏だよ』って言ってたよ?」
「「桜!?」」
陽向くんは首を傾げながらそう言い、それを聞いた俺と柴乃は思わず桜の方を見る。
「だ、だってその時はまだ灰斗くんのこと気にしてなかったし‥‥」
耳まで真っ赤にし、モジモジとした状態で言い訳をする桜。そうじゃなくて、こんな小さな子に言うことじゃないだろそれ! 陽向くんまだ6歳くらいに見えるけど!?
「ちょっと陽向と桜。玄関前で騒いだら近所迷惑でしょうが‥‥あら柴乃ちゃん。いらっしゃい‥‥と、あなたは?」
「え、あ、どうも‥‥えっと、桜さんのクラスメイトの板間 灰斗って言います‥‥」
俺たちが玄関前で騒いでいたため、桜の家から桜のお母さんらしき女性が出てくる。しかも、初対面の俺を明らかに怪しんでいるようで、じーっと眺められている。当り前と言えば当たり前だけど!
「朱美さん、お久しぶりです。桜から話は聞かれているとは思いますが、こちらの方が先日私たちを助けてくださった方です」
桜のお母さんの突然の登場にどうしようかと頭を悩ませていると、横から柴乃が大和撫子のようなおしとやかな振る舞いで挨拶をする。
「あぁ! あなたがそうなのね。初めまして桜と陽向の母の朱美です。娘と柴乃ちゃんを助けていただいてありがとうございます」
「い、いえ。そんなたいそうなことはしてませんのでお気になさらず‥‥」
俺は頭を下げてくる朱美さんに断りを入れつつ、隣に立つ柴乃へと視線を移す。
「‥‥どっちが素の柴乃?」
「失礼ですね。今までのは灰斗さんをからかったり、気を引くための演技に決まってるじゃないですか。私は聖女ですよ?」
「絶対嘘だろ‥‥イテッ」
小声でそう呟くと、柴乃に軽く肘を入れられる。どうやら柴乃は朱美さんの前では猫を被っているらしい。どこまでいっても『黒聖女』だな‥‥。
「灰斗くんでいいかしら? もしよかったらウチに上がっていかないかしら? 桜たちを助けてくれたお礼もしたいのだけれど」
「ママの言うとおりだよ。灰斗くんはお礼なんていらないって言うけど、やっぱりちゃんとお礼はしたいし…それにもう少し一緒にいたいな‥‥」
「僕もお兄ちゃんと遊びたい!」
白咲家全員にそう言われ、俺はだんだんと断りづらい状況になっていくのを感じる。
「朱美さん。私もご一緒してもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんよ。ほら、早く上がってらっしゃい」
「灰斗さん、行きましょうか」
どうやら柴乃もノリノリなようで、俺はついに退路を塞がれる。柴乃と桜、それから陽向くんに半ば強引に中に連れていかれてしまう。
「今日こんなのばっかりだな俺‥‥」
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昨日更新できなかったので、今日2話更新になります
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