第9話 放課後デートには爆弾を

「よーし、息も整ったし、どっか寄り道しよっか!」

「賛成です」


 聖女2人は、さっきまで呼吸を乱していたのが嘘のようにピンピンしており、どこに寄り道しようかなどを楽しそうに話し始めた。スマホで時間を確認すると、ダッシュで学校を出たおかげで、今は16時を回ったあたり。この時期なら日没の時間もそこまで早くないし、大丈夫だろう。


「じゃあ、俺はここで。気を付けて帰ってね」

「え? 何言ってるの? 灰斗君も一緒だよ?」

「当たり前です」


 俺が別れを告げその場を後にしようとすると、逃がさないとばかりに、聖女2人から両腕をがっちりとホールドされる。そうすると自然と俺との距離も縮まってしまうわけであって、女子特有の柔らかい身体が直接俺の体に押し付けられてしまう。普段の聖女たちからは考えられない距離感だ。けど、そんなことよりももっと危ないことが1つ。さっきから周りの視線が痛い。とにかく痛い。チラチラとこっちを見てきたり、嫌悪感を示す視線を送ってきたり、酷い人だと舌打ちもされてる。ほんとごめんなさい‥‥。


「ちょっと、 一旦離れて! 周りに人もいるから!」

「だって腕話したら灰斗くん逃げちゃうじゃん」

「逃げないから!」

「わかりました。けど、逃げたら許しませんからね」


 俺が必死で懇願すると、聖女たちは渋々腕の拘束を解いてくれる。本当ならこのままダッシュで家に帰りたいところだが、そんなことをしてしまえば、俺の命が危なくなってしまうので我慢する。


「ところでさ、灰斗くんは甘いもの好き?」

「え? まぁ人並みには好きだけど」


 突然投げかけられた質問に、俺は困惑しながらも当たり障りのない答えを返す。実際、すごく好きかと言われるとそうでもないし、特段嫌いというわけでもない。自分で買って食べたりすることはあまりしたことがない。


「じゃあさ、クレープ食べに行かない? 美味しいクレープが食べられるところ知ってるんだ!」

「食べて後悔することはないと思います。それくらい美味しいですし、私も桜も気に入ってるお店なので、灰斗さんも気に入ると思います」

「ん~、まぁ2人がそこまで言うなら‥‥」


 聖女たちはよほどそのクレープが好きなのか、目を輝かせクレープの良さを熱弁してくる。そこまで言われると気になってしまうので、俺は聖女たちの提案を承諾する。


「じゃあ決まり! さっそく移動しちゃお!」


 俺の答えを聞いた白聖女は、スキップしながら移動を始める。そんなに喜ぶものなのか‥‥と不思議に思いつつも、俺は黒聖女と一緒に白聖女の後をついていく。


「自分の好きなものは、好きな人に共有したくなりますからね。桜があそこまで喜ぶのも分かります」


 俺の疑問を察したのか、黒聖女は先を行く白聖女を微笑ましそうに見つめながらそう語る。その言葉の中にさらっとトンデモ発言が混じっていたが、触れてしまったら大変なことになりそうなので、俺は気づかないふりをする。


「そっか‥‥2人がそこまでおすすめしてくるなら相当美味しいんだろうな。俺も楽しみになってきたよ」

「えぇ、期待していてください」


 そう言ってこちらに笑顔を向けてくる黒聖女の破壊力は抜群で、俺は直視することはできず目を逸らしてしまう。こうしていると、改めて目の前の2人がかなりの美人であることを思い知らされる。とんでもない人たちに気に入られてしまったものだ。


「ちょっと! 私もいるのに2人だけでイチャイチャしないの!」

「いや‥‥別にイチャイチャなんて‥‥」

「あら? さっきは私を見て『相当美味しいんだろうな』なんて言ってたじゃないですか。私を食べようとしてたんじゃないですか?」

「いやクレープの話だから! とんでもない誤解生もうとするとやめて?!」

「灰斗くん‥‥えっちだね‥‥でも灰斗くんならいいかな」

「クレープの話! ほんとにそんなつもりないからやめて!?」


 黒聖女が変な言い回しをしたせいで、白聖女は勘違いを起こし顔を赤らめながらモジモジしだす。てか、黒聖女ってこんなことも言うの?! 普段の感じからは全然想像つかないのに。


「私はなので、灰斗さんの気を引くためなら手段は問いませんよ。ですが私がこうなってしまったのも、桜がこうなったのも全部灰斗くんのせいですから。 責任、ちゃんと取ってくださいね?」


 少なくとも後半は絶対黒聖女のせいなのだが、当の本人は面白そうに笑うだけ。美人の笑顔を振りまかれてはツッコむ気力も削がれ、俺はその笑顔に見惚れてしまう。


(とりあえず、黒聖女が要注意人物だってことはちゃんと覚えておこう‥‥)


 これ以上爆弾をばらまかれないようにするためにも、俺は心の中で固く決意した。

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