第8話 逃走

「灰斗くーん! 一緒に帰ろ~」

「よろしくお願いしますね」

「よし、いったん待とうか」


 放課後、俺が帰る準備をしていると聖女2人がやってきて、俺に声をかけてくる。けど、今は放課後入ってすぐだ。つまり、教室にはたくさんのクラスメイトが残っているわけであって、ただでさえ視線を集める聖女たちが爆弾発言をしたせいで、クラス中から、驚愕と困惑の視線がこちらへと向けられる。


「どうかしましたか? もしかしてこれから何か予定がありましたか?」

「用事あるなら遠慮なく言ってね? 私たち待ってるし」

「いや別にそういうわけではないんだが‥‥ここで言うか? せめて学校の敷地外に出てからとかさ。もうちょっと場所を考えてほしいというか‥‥」

「えー? でも、昼休みに約束したじゃん。同じ時間を共有しようって」


 白聖女の発言に、クラスはさらに混沌を極めていく。泣き叫ぶ男子、呪詛を唱えだす男子、シャーペンとか持ち出して戦闘態勢に入る男子、黄色い声をあげる女子、ヒソヒソ話を始める女子など様々だ。唯一、透真だけは面白そうに爆笑していた。アイツは絶対しばく。


「とりあえず、ここで話すのはいろいろとまずいから、一旦場所を変えようか」

「お~‥‥急に手握るなんて灰斗くんも大胆だねぇ」

「でも‥‥いい気持ちです」


 とにかく場所を変えないと更に状況が悪化してしまうと判断した俺は、2人の聖女の手を取って一目散に昇降口へと走り出す。後ろの聖女2人は握った手をすごい強さで握り返してくるし、教室からは阿鼻叫喚が聞こえてくるが、今はもうそんなのお構いなしだ。とにかく場所を移すことを最優先事項にする。途中で何人かの生徒とすれ違い、何事かという目を向けられたがそれも気にしない。どうせ、さっきの教室での一幕のせいで俺の噂が広がるのは止められないだろうし。


(てか、なんだこの感触。2人とも手小さいし、肌すべすべだし、俺この手握ってていいのかな? 相手は学校の聖女様だよ? なんか罰当たっても文句言えねぇなこれ)


 冷静になってみると、とんでもないことをしていることに今更気づくが、もう手遅れなのでそのまま足を止めず、昇降口へと到着。


「ちょ‥‥ちょっとストップ‥‥か、灰斗くん足速いね‥‥やっぱり‥‥何か運動の経験があるのかな‥‥? 昨日も‥‥ナンパ男一撃だったし‥‥」

「はぁ‥‥はぁ‥‥か、灰斗くん‥‥今度からは‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥スピード落としていただけると‥‥はぁ‥‥助かります‥‥し、しんじゃう‥‥」

「あー!!! ごめんなさいごめんなさい! 気遣えてなかったです! そりゃそうですよね! ほんとごめんなさい!」


 昇降口で足を止め、後ろにいる聖女たちへと視線を向けると、2人とも膝に手を付き、肩で息をしていた。そりゃそうだ。俺が全速力で走るのについてくるのは、普通の女の子にはかなりきついだろう。こればかりは、手を引っ張って付き合わせた俺が全部悪いので、腰を折る勢いで頭を下げる。


「アハハ‥‥そこまで謝らなくても‥‥大丈夫だよ‥‥ちょっと休めば回復するから‥‥とりあえず、外出ちゃおっか‥‥」

「は‥‥はい‥‥灰斗くんもお気になさらず‥‥あいてっ」


 2人はそういって下足に履き替えようとしているが、俺にはあまり大丈夫には見えない。特に黒聖女。足元がフラフラで、今も靴箱にぶつかっちゃってるし‥‥。


(後でちゃんと謝ろ‥‥今度からはもうちょっと気を遣わないとな)


 俺はそう心に決め、聖女たちに続いて学校の外へと出た。



「王子さまは大変ですなぁ‥‥明日からが楽しみだよ灰斗クン」

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