第20話

「雪花、ちょ、ちょちょちょ、どこにいる?雪花っ…」

「はい?」

「さ、さ、さ」

「さっちゃん?」

「紗良紗はどこだい?!」

「えっ」



 さっちゃんが寝ている間に、庭の草木をあれこれ見て回っていた。さっちゃんの普段着を仕立てようと思い立ったのだ。

 さっちゃんは、生まれてからずっと同じ御衣で過ごしている。あの、ご主人様が作った白い御衣だ。これが本当に訳が分からないんだけれどとにかく凄くて、汚れない、破れない、色褪せない。そして柔らかくて肌あたりが良く、さっちゃんがパタパタ動いてもしなやかに身体に沿うのだ。いちおう時々水場で洗うんだけど、洗ってからバサバサと振るだけで乾いてしまう。

 ということで一枚で事足りてしまう。

 だけれども。事足りているのだけれども。

 さっちゃんはどうも発育がとにかく速いので、もうそろそろハイハイし始めてしまうんじゃなかろうかと気がついたのだ。それならば動きやすいように、もう少し短い丈のものをもう一枚作ってやれないかと思い立った。なんと言ってもこの御衣、長いのである。立って抱っこしても私の膝くらいまである。なるほど、これならぐるぐる巻きも余裕だ。

 これだと、動くようになると暑いし。

 それに、流石に擦り切れそうだし。

(ずっと同じのじゃつまらないとか、そんな贅沢な動機じゃあないですよ?)

 ということで、庭の草木を物色中だったそんな時に、楠木さんが血相変えてやってきたのだった。


「さっちゃんなら寝てたはずですよ!?」

「なんてことだっ鬼の仕業か?!」

「鬼?!そんなの出てくるの?!どうしようっさっちゃん無事でいて!」

「領の内にそれらしき気配は感じていなかったはずなのに…紗良紗!紗良紗、どこにいるんだ!」

 急いでさっちゃんの寝床へ戻る。やはり寝床はもぬけの殻だ。

「くそっ紗良紗の気配が読めない…!領の外へかどわかされたか!」

 部屋を飛び出していった楠木さんは、何か大声で指示を出している。

 私は血の気が引いてその場にへたり込んだ。


(私のせいだ、私のせいで…目を離したから)

 どうぞ無事でいてと祈りながら、半泣きで空の寝床を見た。泣いてどうすると自分を叱るけれど、どうしても込み上げてくるのだ。

「さっちゃん…どこいっちゃったのぉ…ぐすっ」






「ぅぁ?」


「…さっちゃん?」


「ぁぶぁ。」


「さっちゃん、出ておいでー?」


「へひゃっ」



 なんて賢い子なんだ。

「かくれんぼしてんの?!」

「ひひっ」

 しかも笑ってるし。

「どこだどこだ〜、どこにいるのだぁー!」

「へへっ」

「ここか!」

「ふへっ」

「ここか?!」

「ふぶぅー」

「ここっいたぁ!!みっけ!」

「ぴゃぁっ!ぁうっあ〜。」

「さっちゃぁーん!」

 抱き上げて頬擦りすると、さっちゃんはご機嫌で手足をパタパタさせた。

「びっくりしたよぉっもう!いなくなっちゃったかと思ったよっ」

「ぁぷぁ?」

「もうー!可愛いから許すけど!」

 ご機嫌なさっちゃんは、お目々はきゅるるんだし、お口の端も上がってニコニコしている。よっぽど楽しかったらしい。

「これからは目を離さずにいないとだな、さっちゃんかくれんぼ上手だから。あ、そうだ。楠木さん、楠木さーん。」

 

「雪花、今救援を呼んでっ」

 真っ青な顔でなだれ込んできた楠木さんの後ろに、山のようなリス、リス、リス。

 そして鳥。小さいのも大きいのも。

 あら、何やら別の動物も。いろいろ、いっぱい。

 驚きで思わず飛び上がる。やってしまったと焦ってさっちゃんを伺うと、さっちゃんもちょっと驚いているのか目が真ん丸になっている。

(かわいいな。)

「すぐに来てくれるから…え、紗良紗!?あれ?!いる!」



 楠木さんはヘナヘナとへたり込んだしまった。

「無事だったのか…良かった」


「ぶぁ。ぅぁ。」

「さっっちゃーん、ごめんなちゃいって、ほら。とと様も心配してたんだよー。」

「ぅぉ?」

 さっちゃんは、不思議そうに首を傾げて楠木さんを見下ろした。楠木さんはヨレヨレではあるが、へにょっと笑顔になった。

「はは…良かった…紗良紗が無事で…うん…なんで?」

「さっちゃん、かくれんぼしてました。」

「ぁぶぁ。」

「かくれんぼ…?」

「さっちゃん、ここまでハイハイしてきたの?」

「ぅぶぁ。」

「そっかぁ、すごいねぇ!さすがさっちゃん!」

「ぅぷぃ!」

「はは…ははは…はっ!救援要りませんって連絡しなきゃ」

「変時と伺い参りました。」

「うわあっもう来た!」

「神鷹さん!」

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