27 真実
AMLのラボに押し掛けた久我と穂浪を出迎えたのは、折原室長だった。
「久我、また来たのか」
「突然すみません。地球外生命体と面会したいのですが、よろしいですか?」
「構わんが、今はCILが質疑応答中だ。まぁ、まともな質疑応答になっていないがな。少し待っていてくれ」
「はい、ありがとうございます」
折原室長に先導されて地下室への階段を降りていくと、浮かない顔のCILの研究員たちが地下室から出てきた。それと入れ違いに、久我と穂浪は地下室に入った。
ミッシュは穂浪を見るなりパァッと笑顔になった。そして、続いて入室した久我を見て、げんなりと表情を曇らせた。
「ミッシュ、久しぶり」
穂浪がにこやかに挨拶すると、ミッシュは「お久しぶりです!」と明るい声で返事をし、
「お前に聞きたいことがある」
久我がミッシュの正面の椅子に座ると、ツーンとそっぽを向いた。
「ワタクシは『お前』ではありません。『ミッシュ』という親に付けてもらった名前があるのです」
「逢坂が地球外生命体の集団に拉致された」
淡々と告げた久我を、ミッシュは目を見開いて見やった。
「奴らはお前を連れて来ることを条件に、逢坂を解放すると言っている。お前は地球に観光しに来たと言っていたが、どうして観光しに来ただけのお前を、人間を人質に取ってまで探しているんだ?」
「ワタクシの帰りが遅いから心配しているのかもしれません。何しろ、ワタクシは捕らわれの身ですから、しばらく家に帰れていないのですよ」
「だとしても、10体以上の集団で来るのはおかしいだろ」
「それだけワタクシを心配しているのでしょう」
「お前、何を隠しているんだ?」
「何も隠してなどおりません。まったく、あなたは本当に疑り深い方ですねぇ」
呆れたようにミッシュがため息を吐いたときだった。
ガタンッ!
地下室に大きな音が鳴り響いた。久我が勢いよく立ち上がったせいで、椅子が倒れたのだ。久我は立ち上がった勢いのまま、ミッシュの肩を鷲掴みにした。
「逢坂が危険な目に遭ってるかもしれねぇんだよ!!」
久我は感情的に叫びながら、ミッシュの肩を揺った。久我の後ろに立っていた穂浪は止めようとしたが、間に合わなかった。いや、急げば間に合ったが、久我の気迫に気圧され、手を出せなかった。
「観光に来ているだけというお前の発言に僅かでも矛盾が生じた今、これまでのお前の発言全てを鵜呑みにできなくなった。お前の発言のどこに嘘が紛れているのか曖昧な状態だ。お前は俺を疑り深いと言ったが、逢坂を――地球を守るためには、疑いたくなくても疑うしかねぇんだよ!」
久我はミッシュの肩を乱暴に放した。ガタン、ミッシュが尻餅をつく。
「はっきり言って、俺はお前が死のうと構いやしない。逢坂を助けられるなら喜んでお前を奴らに差し出す。だが、俺はそうしていない。それがどういう意味か分からねぇのか?」
「え? どういう意味ですか?」
こういう緊迫した場面で、空気を読まず質問してしまえるのが穂浪という男だ。
「俺はもともと平和主義なんです。逢坂を襲った地球外生命体の集団がミッシュにとっても脅威であるなら、ミッシュを守ってやらないでもない」
久我の答えを聞いても、穂浪の頭には「?」が浮かんだままだった。それどころか、「?」が増えたかもしれない。
「これは俺の想像だが、お前は地球に観光しに来たわけじゃない。逃げて来たんだろ? 逢坂を襲った地球外生命体の集団から」
「えぇ!? ミッシュ、そうなの!?」
久我と穂浪に問い詰められ、ミッシュはキュッと口を結んだ。
「お前はほとぼりが冷めるまでこの地下室にいるつもりだった。だから、CILの質問にまともに答えなかった」
「ちょっと待ってください、久我さん。そもそもミッシュはどうして地球に逃げてきたんですか?」
「さぁ? それは俺にもわかりません。第一、これは想像に過ぎません。真実は本人の口から聞きましょう」
久我と穂浪に見つめられながら、ミッシュは黙っていた。そして、観念したように肩を落とした。
「ワタクシは……故郷を追放されたのです」
語り始めたミッシュの声には、悲しいようにも寂しいようにも聞こえる静けさがあった。
「ワタクシは地球も人間も大好きです。その心に嘘はありません。地球のみなさんと仲良くするために、言語をはじめとした文化を多く学びました。何度も地球を訪れ、その度にその美しさに感激しました。そして、人間と地球外生命体の平和協定の締結を目指し、地球外生命体の連合に働きかけました。しかし、地球外生命体の中には、先人たちが人間から攻撃を受けた過去を恨んでいる者もおります。ワタクシは攻撃を受けたのは過去のことであり、今生きている人間たちは地球外生命体に危害を加えないと何度も説明したのですが、理解してもえませんでした。それどころか、人間と仲良くしようとするワタクシは異端であり、地球外生命体に危害を及ぼす危険があるとして逮捕されました。そして……死をもって罪を償うよう言われました」
「それって……」
「死刑です」
穂浪の呟きを引き継ぐように、ミッシュは抑揚なく告げた。
「ワタクシは納得がいきませんでした。人間から攻撃を受けたことは事実ですが、我々地球外生命体も人間を攻撃したのです。そのせいで命を落とした人間もいます。地球外生命体は人間の攻撃くらいでは、瀕死状態になったとしても絶命することはありません。現に、当時、人間の攻撃を受けた地球外生命体は今も生きております。それなのに、自分たちばかりが被害者のような顔をして、過去を引きずり、人間を理解しようともしない。このままでは死んでも死にきれないと思い、ワタクシは故郷を離れ、地球に逃げてきたのです」
そこまで言うと、ミッシュは立ち上がった。
「しかし、追手が来てしまった以上、ワタクシはここを離れます。大好きな人間を危険に晒したくありませんから」
「でも、追手に捕まったらミッシュは……」
「故郷に取れ戻され、近いうちに処されるでしょう」
あっさりと言うミッシュに、すかさず久我が問うた。
「これからどうするつもりだ?」
「逢坂さんを連れ去った地球外生命体たちと交信します。そして、逢坂さんの身の安全を条件に、ワタクシの居場所を伝えます」
「どうやって?」
「そうですね……口で説明するのは難しいので、まずはワタクシと手を繋いでください」
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