13 出現時間


 穂浪が搭乗準備に向かって間もなく、バタバタと慌ただしい足音とともに久我がラボに入ってきた。走ってきたのか、髪も息も乱れている。


「逢坂! 現状報告!」


「五号機の離陸準備は完了してる。今は穂浪キャプテンの搭乗準備待ち」


 ヘッドセットを装着しながら、逢坂は手元のパソコンを確認する。


「なんだってこんな時間に出現したんだ?」


 久我はイラついたようなため息を吐きながら、逢坂の背後をうろうろした。平素から短気な久我だが、今は特に苛立っている。その理由は、現状が異常事態だからだ。


 今まで200年間、地球外生命体は夕方6時から翌朝9時の時間帯に出現したことがなかった。CILによると、地球外生命体は、日本時間の夕方6時から翌朝9時までの時間に地球にいることを危険だと認識しているらしい。現にその時間帯の地球外生命体の目撃情報は記録になく、午後6時になると地球外生命体が地球外へ逃げ出したという報告は多い。出現時間を統計的にみて、CILは「夕方6時から翌朝9時に地球外生命体は出現しない」とした。しかし、午後9時30分の今現在、地球外生命体が出現している。


「こちらFPLの逢坂です。五号機キャプテン、応答願います」


「こちら五号機、穂浪。どうぞ」


「情報収集室からの情報です。出現した地球外生命体は1体。場所は局のヘリポートです」


「えぇ!? 局って、この真上!?」


「驚いている余裕があるなら離陸準備はできてるんですね?」


「あ、いや、まだ……」


「なるべく早くお願いします。CILから情報が届き次第すぐに離陸したいんです」


「でもさ、逢坂さん、一ついい? あ、えっと、ゴホン……一つご提案がございますであります」


「はい、なんでございましょうか」


「近くにターゲットがいるなら、わざわざブループロテクトで行く必要あります? 走って行った方が早い気がするんですけど」


「ターゲットが穏やかな性格の場合は、不用意に刺激しないという意味でもその方が安全かもしれません。しかし、まだターゲットの特性が分かっていません。今その判断をするのは危険です」


「じゃぁ、いつになったら特性が分かるんですか?」


「情報収集室からCILにターゲットの映像が送られて、CILが特性を解析できたらです」


「それ、何分くらいかかります?」


「いつもは5分程です。しかし、今回はいつも通りが通じるとは限りません」


「どうして?」


「地球外生命体が出現しないとされていた時間に出現しているからです。過去のデータだけでは見切れない部分もある可能性があります」


「だったら、映像を待つより直接ヘリポートに見に行った方が早いですよね」


「穂浪さん、もしヘリポートに向かおうとしているなら考え直してください。いくら早くターゲットを見つけても、特性を見極めるのはCILです。穂浪さんは操縦席に座って、離陸の合図まで待機してください」


 逢坂は、至極真っ当なことを言ったと自負していた。穂浪が逢坂とは違うものの見方で反論してきても、久我が加勢してくれるはずだ。と身構えながら、穂浪の返事を待った。しかし、ヘッドセットからは返事が聞こえない。


「……え、穂浪さん?」


 呼びかけても、返事はない。嫌な予感が脳裏を過り、逢坂は声を荒らげた。


「五号機キャプテン! 応答願います!」


 マイクに向かって叫びながら、逢坂は肝心なことを思い出した。


 【穂浪の生態⑥ 考える前に行動するタイプ】



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