3 パイロット・穂浪泰介


穂浪ほなみ三等空曹! 今すぐ司令室に来なさい!」


 機体操縦室内のスピーカーから、佐伯さえき二等空佐の怒号が鳴り響いた。ブチッという荒々しい音とともに放送が切れた後、その場にいたパイロット全員が、一人の男を振り返った。


「はぁ~あ。なんだよ、今日は大人しくしてたつもりなんだけどなぁ」


 ため息を吐きながらデスクから立ち上がったのは、穂浪泰介ほなみたいすけ


「穂浪、また呼び出しかよ」


「今週はもう2回目だぞ?」


「今日はどんな悪さしたんだ?」


 総司令官の自室である司令室に、一般階級のパイロットが呼び出されることはほとんどない。しかし、穂浪が呼び出されるのは珍しくなかった。


「うるせぇな。今回は心当たりねぇよ」


 茶化す同僚たちをあしらいながら、穂浪は椅子に掛けてあった制服のジャケットを無造作に羽織った。


「心当たりがねぇってよ」


「悪さしすぎて、何が悪さか分からなくなっちまったか?」


「だから、今日は何もしてねぇって! むしろ人助けしたんだから褒めてほしいくらいだよ!」


 ジャケットの襟が立っていることに気付かないまま、穂浪は機体操縦室を出て行った。


「人助け?」


「廊下で倒れた研究部の女の子を医務室まで運んだんだってよ」


「人助けって、それだけかよ」


「研究部の女の子ってどんな子?」


「分厚い眼鏡かけた、地味な感じの子だったらしい」



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