第10話

そして、迎えた週末のコーヒータイム。


今日は、センちゃんも市丸君も参加して、総勢4人で店を回すのだが。


途中で取材も入るので、決して満足な人員体制とは言えない。


最近は本当にお客さんが多いのだ。


一番、お店が空いているのが、オープン直後の1時間なので、その時間の前後に来て欲しいと伝えた。



美咲ちゃんがお店に到着したのは、お昼のオープンの30分前だった。




「お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」


「久しぶり。ヨロシクね」



美咲ちゃんの隣には、件のマリアンヌが居た。



「初めまして、マリアンヌと申します」


「初めまして。嘘、本物だ」



特に思い入れはないが、全国区で出ていたタレントに会えた事に私は人並みに感動を覚えた。


長身細身のモデル体型。


髪は金髪ロングで、奇抜だった。



「風邪、引かれているんですか?」


「あぁ、今、妊娠中なんで、病気予防でマスクしてるだけです」



私がそう言うと、マリアンヌさんは感心した様子で私に頷いた。



「美咲ちゃんの番組に出ていた奥様ですよね。おめでとうございます」


「ありがとうございます。私は裏方なので、ばっちり、家のお店と旦那様をばんばん取材しちゃってください」


「はい。勿論、ちょっと羨ましいって思っちゃう位素敵な番組だったんで、美咲ちゃんと一緒に私もこの番組を作れるって聞いて嬉しいです」



私は美咲ちゃんとマリアンヌさんに会釈して、その場を立ち去り、カウンタースペースで今日から始める新メニューの準備に取り掛かった。



「セイさん。今日から本当にあれをやるんですか?」


「うん、由貴さんのOK取れたし、まずはセンちゃんに覚えて貰って、出来たら、今日中に市丸君もレクチャー出来たら良いと思うんだけど。オーダー入るかな?」


「入りますよ。クレープ好きであれば、ほぼ全員のお客様が、頼まれますよ」


「だと、良いんだけど」



私は、オレンジの外側を細めのピーラーで剥いて、中身は薄めの串切りにした。


今日の為にあらかじめ手作りした林檎の砂糖煮。


植物性のくちどけがさっぱりしたホイップクリーム。


色とりどりのミックスベリー。


準備を終えた頃、私は由貴さんに声をかけられた。



「ごめん。さすがに、アレはセイじゃないと……。俺、まだ自信が」


「いや、大丈夫でしたよ! 由貴さん、マスター何だから」


「いや、先生が、俺まだ、半人前だから」



テレビに映るの好きくない。


でも、確かに、由貴さん。


グランマニエ(リキュール)の熱気で、クラって来てたし。


って、いやさ。


いくらお酒弱いからって普通それぐらいで立ち眩みしそうにないものだけど。


もう、説得するにも時間ないし。


美咲ちゃんには手元だけ映してねって、言おう。


そう心に決めて、私は本日よりホールに常備したカセットコンロを乗せたキッチンカートに向かった。

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