第4話

開店時刻の19時。


お店の営業プレートを『OPEN』にして間もなく。


一人のお客さんが颯爽とやって来た。


ふっわふっわの銀髪がトレードマーク。


眺めの前髪はサイドに分けて耳が隠れる程度の短髪。


首が長めで、なで肩なので、胸元があいた服を着ると超絶艶っぽい色気がある。


行儀よく店の前でロングコートを脱いだのか、手にコートを掛け、胸元がざっくり空いた上着に、スラリとしたボディラインが協調された細めのカラージーンズ。


全く、ソウにしろ、ユキさんにしろ。


どうして、みんなこうも揃いも揃って、それぞれ違ったタイプのイケメンなんだろうか?



「いらっしゃいませ。って、お久しぶりです、サトルさん!」



会社を辞め、心機一転店に出て最初に迎えたお客様第一号は、幸か不幸か、市丸君のお兄さんのサトルさんだった。



「やぁ、久しぶり。結婚とおめでた、おめでとう!」


「ア、アリガゴザイマス……。どうぞ、カウンターへ」


「ありがと。 今日から、君がお店に出るって聞いて、早速、お邪魔しちゃった」


「そうだったんですね? お飲み物はお決まりですか?」


「じゃぁ、バラライカを。 セイさんにお願い出来るかな?」


「濃ゆ目になりますが、宜しいでしょうか?」


「望むところだよ」



程ほどにしてくれ。


そう思いながら、私はカウンターに回って由貴さんに声をかけた。



「由貴さん、市丸君のお兄さんが私のバラライカと無茶振りされているんですが?」



由貴さんは一瞬目を見開いて驚いたような表情をした後、薄く笑みを零して、私に言った。




「あはは、じゃぁ、セイにお願いしても良い?」


「喜んで」



私は、はちみつレモンを取り出して、ホワイトキュラソーとウォッカに氷を一かけら、シェーカーに入れると、すかさず、市丸君のお兄さんが私に声をかけてきた。



「氷を入れるの?」


「はい。ロシアカクテルなので、ウォッカで身体が温まると外雪降ってる訳でもないんで、暑くなると思って。口触りは冷たい方が良いと思うんです」



市丸君のお兄さんのサトルさんも、一時期だが、このお店でスタッフをしていて培った感覚があるのだろう。


私の作法に物申しして来た事に、ちょっと私は感心した。


シェーカーの蓋を閉めて、素早く振るって、逆三角のショートグラスに注いだ。



「だったら、ウォッカを少なめにしたら良いのに?」



そして、由貴さんから頂いた意見も由貴さんならではの考えだと納得出来た。


私はアルコールを気持ちよく飲める工夫はするが、アルコールに日和見なお酒は作らない。


それが私のカラー(自己主張)だから。



「ふふ。そうなんですけど、これが『私らしさ』です」


「そうだね」



私はグラスをカウンターから、市丸君のお兄さんに提供した。



「お待たせ致しました。バラライカです。おつまみは、オリーブがおススメですが?」


「そうだね。夕食は帰って食べるから、それを貰って良い?」


綺麗な言葉遣いに、ちょっと高めの良く通る声。


柔らかな笑みを浮かべる彼は、由貴さんにも負けないイケメンであり。


実は既に小学生の娘を持つ、イクメンでもある。


きっと、彼の今の表情を盗み見た女の子は、心臓が慟哭したのではなかろうか。



「喜んで。少々、お待ち下さい」



カウンターに戻る最中、テーブル席からひそひそ声で『あの人、モデルさんかな……』『この前、テレビに出てなかった?』と聞こえた。


正にその通りだ。と思った。

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