心機一転 新しい ジ・ブ・ン

第2話

石崎 誠27歳。


会社生活最後の夜を、目が眩むどころか、美しすぎて失明してまいそうな位イケメンの旦那さまと帰宅の途についてます。





由貴さんと会社を出て、何の気なしに歩いていたが。


タクシーを拾う素振りがないので、よもや退職の想い出に歩いて帰るのかも(およそ、1キロほどの道のり)?


何て淡い期待は、会社最寄りのコインパーキング前で、由貴さんの車を見つけて散った。



「由貴さん。今日、お店、開いているんですか?」


「うん。ソウが店長してくれているよ。ノリノリで」



でしょうね。


昨今、店に出たがっていると市丸君が言ってたから、多分そうじゃないかとは思っていたけど。



「夕飯、何か食べて帰る?」


「良いんですか?」



久しぶりの外食は嬉しい。


妊娠が分かってから、病院の帰り以外で外食してなかった。


謎の感染症、コロナって名前がついたっけ、それもあるけど、普通に風邪やインフル、はしかに風疹も怖いので。


おいそれと外に出る気がしなくて。


公園に散歩に行ったり、海や山に休みの日に由貴さんが連れて行ってくれるのだが。


夜の飲食店は久しぶりだった。




「今日はセイが主役だよ。どこでも、付き合うよ」


「じゃぁ、月でお団子食べたいです…」




由貴さんは、満面の笑みで私に言った。





「風邪引くから、月はやめとこうか…」




そうですね。 説得力あります。


私は、冗談はさておき、本音を言った。




「では。……実は、資さんうどんが良いです。ユキさん。甘すぎないおはぎに、しみしみおでんに、うどんはカロリーオーバーですか?」


「良いんじゃない? まだ、遅い時間じゃないからね。食後、少し歩いたら、大丈夫だよ」



魚介と昆布で取った出汁が効いた、薄めのスープに腰と言うよりは弾力のあるもちもちの太麺。


トッピングはごぼう天。


染み染みのおでんを選りすぐって、もちきんちゃくと大根とこんにゃく、牛筋は外せない。


大粒の小豆を煮て作った甘さ控えめの大ぶりのおはぎはデザート。



「……じゃあ、良いですか?」


「行こう」


車で目的地に連れて行って貰い。


お店で、笑顔で自分の食べたいものを注文する私に、由貴さんは苦笑いを浮かべた。



「ごめん、セイ。 よく考えたら、おはぎも、うどんも、おでんの餅巾着も、炭水化物だよね?」


「はい。でも、今日はと・く・べ・つ。ですよね!」


「うん。わかった。何時もだったら、止めるけど、今日はこれ以上何も言わないよ」


ハイパー食事にストイックな由貴さんが本性をチラつかせ、牽制をかけてくるのも、何のその。


これから、お互いうまくやれるはずだ。


私と由貴さんの二人でなら……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る