第4話

「あれ、いつものおじいちゃん」



出来上がった料理を和室に運び。テーブルの傍に控えているとそこにお弁当屋さんの常連だったおじいちゃんが姿を現した。




「やあ、うちのしずが無理言ってスマンのぉう」


「え、しずって?」


「俺の事だ!」


「きゃぁっ」



おじいちゃんの後ろから、『しず』と呼ばれる私をここに連れて来たヤクザさんが戻って来た。



「早く、飯にしろ」


「え、あ、えっと」


「急げ。何だ、持病でもあるのか?」


「な、ないわよ」



取敢えず、汁物とご飯をよそって配膳し、テーブルの脇に控えているとギロッと『しず』と言うヤクザに睨まれた。



「早く席に着け。立って食う気か?」


「へっ?」


「行儀が悪いぞ、座れ! ……お前、名前は?」


「は?」


「お前の名前だ?」



『知らなかったんだ!!』



「あ、き」


「ここに座れ、あき!」



怒鳴り付けられ、大急ぎで席に着くと


目配せでおじいさんが『ゴメンね』って感じで


お茶目な目くばせをして来たが内容は定かではない。



普通に食事して、お茶のお替わりを用意したりした。



「よく引き受けてくれたのう」


「へ?」


「こんなむさ苦しい男所帯のそれも、ヤクザの家じゃのに、料理を作りに来てくれるじゃなんて」


「は、はぁ……。えっと、でも、私何かの料理で良いんでしょうか?」


「あぁ、もう、来てくれるだけで大歓迎じゃ。もう正直、お前さんで丁度50人目になるからのう……」



『ん? 50人。 は、50? え?」



「それはまたどうして」


「さあ、何でじゃろうのう? しず?」


「知るか、1日や2日で根を上げるようなら、覚悟しておけ。俺にも考えがあるからな」



え、なんで、覚悟なんて。


私ただの弁当屋でバイトする勤労学生なのに……。



取敢えず、生ごみを処理したり、お皿を洗ったり


シンクやガスレンジにオーブンレンジも綺麗に磨いて


保存状態の落ちて来た生鮮食品を紙に書き出した。



「おい、21時だ」


「はい。あ、あのこれ」


「何だ、この紙」


「明日中に食べた方が良い、食材リストです。そこの献立表って宅食(宅配配膳)ですよね。だったら、明後日、金曜に来るまでには腐るんで。じゃぁ」



早く帰らないと電車がある。


電車を使って40分はかかるから。



「待て、あき」


「何でしょうか?」



「これ全部持って帰れ」


「はあ?! え!!」


「持って帰れ、さもなければ、捨てて帰れ。それまでが仕事だ!」


「す、捨てるって!!」


「腐らせるものを、腐るまで冷蔵庫に入れておきたいか? お前は」


「自分で食べれば良いでしょ!!」


「自分で作って食べれるものなら、お前を雇う意味がないだろう?」


「他の人に作って貰えば?」


「他の奴が作れるなら、お前に頼むわけがないだろう」


「毎日私が作れと?」


「言ってないだろう? だから、 持って帰るか捨てろと言っている」



私はぷるぷる震えるこぶしを握り締めた。



「じゃ、じゃぁ…持って帰ります! ありがたくいただきます! ありがとうございます!」


「なぜ、礼を言う必要がある」


「私にとって、食べ物は生きる為に必要で、それを難無く手に入れるのが、いつも困難だからよ」


「あぁ、つまり、貧乏だと言いたいんだな?」


「私、貴方、嫌いです」


「おれの名前は貴方じゃない。貴方はやめろ。そして、嫌いになるな。困る」



『困る?』それって、何でだ?


確かに、雇われの身で失礼な態度だ


取敢えず、失業中の身なのだから。



「分かりました。では失礼します」




本当に、料理だけで、月に10万もくれるのだろうか?


変な事になったな。なんて、思いつつ、屋敷を後にした。

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