黒幕

第2話

黒幕




私が殺したはずの女だった。


私を陥れようと画策して、失敗して、痛い目をみて、逆恨みされて、喧嘩…否、殺し合いになって、私は…。





あの日。




あの時。




目の前にいる、薄ら笑いのこの女を、確かに殺したはずだったんだ。





「……久しぶりね、隼 偉(スゥン ウェイ)」


「……」


「何、黙って居るの? ねぇ、隼 桜(スゥン イー)」


「……」




夢、……じゃない。


現実……。


私が刺して、ハルキがトドメを刺した。


死んだはずの人間、レイファ(麗華)にしか見えないし。


亡霊じゃないかな。


いや、もしかしてこれは夢の中の出来事じゃないだろうか。


いっそ。


だって、目の前にいるこの彼女が殺され、死んでしまった事で、私達皆、どうしようもない位、人生が狂ったんだから。


人生変わってしまったんだから。



「お~い、呆けてないで何か言いなよ。現実受け止めな」



「……」


「……」



レイファは、ケラケラ笑う。


私もウェイもそんな彼女に呆然とするばかりだった。




「ねえ、ウェイ。ランファン様を呼ぶのと、行くの。どっちが良い?」


「……。そんな、訳ない」



ウェイは言った。



そして、行動に出た。




立ち上がり、レイファの元へ真っすぐ進むと、レイファの前に立ち、胸元を掻きむしる様に力任せにスーツの上着を捩った。



「ウェイ?」


レイファが驚いてそう声を上げたがウェイは無視した。




「……」



おい、変態。


そう言う事は、オーディエンスが一人も居ない所でやって。



スーツの上着の下は白のタンクトップだった。


ウェイが捩り上げて露わになる胸元には、煙草の焼き痕や細かい古傷が無数にあった。



ウェイは、そのままレイファの腰に手を当て、ベルトを外そうとしたのを咎められて止めた。



「……これぐらいにしといて、人にこういうとこ見せて愉しむ趣味はないの。君がしたいとしても、貴方は見たい? 見て愉しむ趣味、ある?」



『見て愉しむ』は私に向けてか?


ならば、勿論の事。



「勿論、ないわ。そんな趣味」



私もそこでやっと言葉を発した。


死人に語りかけるなんて、狂気の沙汰だ。


彼女が生きていて、この場にいるはずないのに。





「そう? 良かった。 好きって言われたらどうしようかと思った。 車で来ているの。白夜まで、私の車でご案内~。逃げたら、知らないわよ」



「……」

「……」



先に動いたのはウェイだった。


突然、私の手を握った。


そして、へなちょこ全開で私に言った。



「助けて、サクラさん……」


「五月蠅い、無理」



私はウェイの手を払いのけなかったが、勿論握り返したりもしなかった。

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