第8.5話 発端
事の
アスファルトで塗装された
絶体絶命のピンチに
祠の管理人さんが、自身が管理をする祠へと向かった後、現世の人間の姿に身を変えて、堕天使が到来。そこからの記憶がふっつりとないのは、堕天使が姿を見せてすぐに気を失ったからだろう。ふと意識が戻った時には、祠の管理人さんがアスファルトの路上で倒れるまりんちゃんのところへ戻って来ていた。
「よぅ……目が覚めたか?」
どのくらい気を失っていたのだろう。意識が戻り、ゆっくりと閉じていた
「管理人さん……?」
「君、ここで何があったか、説明できる?」
「いいえ……今、目が覚めたところなので……彼は? 黒髪の青年はどこに……」
「君のすぐ傍で、気を失って倒れているよ。ほら、そこに……」
祠の管理人さんからの返答を受けて、アスファルトの路上に仰向けの状態で横たわったまま、まりんちゃんはそっと顔を動かした。左隣で、白いダッフルコートを着た黒髪の青年が、うつ伏せの状態で倒れていた。
「私が気を失っている間に……一体、何があったのかしら」
「さぁな……俺も今、戻って来たところだから、状況がさっぱりわかんねーよ」
顔を元の位置に戻して呟いたまりんちゃんに祠の管理人さんがそう、つまらなそうに返事をした。再び、祠の管理人さんと視線を合わせながらも、まりんちゃんは心配そうに問いかける。
「祠は……無事だったんですか?」
「無事だったよ。見た目は……な」
「見た目は……?」
「祠には、誰かが侵入した形跡が残っていた。それはそこで気を失っている青年のものとみて、間違いないだろう。問題は、祠に安置されている堕天使の像だ。見た目は何の変哲も無い、ただの像だったが……触れた瞬間、像に宿る堕天使の魂がそっくり抜けていた。だから、すぐに
流石は、祠の管理人と称するだけのことはある。彼の鋭い洞察力は、思わず青ざめたまりんちゃんを圧倒させた。
「そ、それじゃ……彼は……」
「罪人……と判断するにはまだ、確たる証拠が不十分だ。今のところは、保留だな。
これはあくまで、俺の予想だが……祠に侵入したのは、そこにいる黒髪の青年だけじゃない。他にも侵入者がいた可能性がある」
黒髪の青年の身を案じたまりんちゃんに、祠の管理人さんは真顔で返事をすると、
「質問に答えてくれ。君は本当に、祠には近付いてないだろうな?」
まるで念を押すように尋ねた。
鋭い眼光を放つ祠の管理人さんの視線がまりんちゃんを捉え、尋常じゃないほどのプレッシャーを与える。
「はい。祠には、近付いていません」
祠の管理人さんからの、無言のプレッシャーに耐えながらもまりんちゃんはそう、ポーカーフェースでしっかりと返答した。
「そうか……」
そう、静かに呟いた祠の管理人さん。おもむろに、まりんちゃんの手を引き、上半身を起こすのと同時にキスをした。
「俺は、君に疑いの目を向けている。黒髪の青年と同じく、祠の中に足を踏み入れた侵入者なのではと。ついさっき、俺はここを離れる直前、ちょっとやそっとの力じゃ解けない頑丈な結界を張って行った。もしもに備えての、堕天使
それが解けているってことは、ここにいる君達のうちどちらかがより強い力を使ったことになる。そう、たとえば……堕天使にしか扱えない『堕天の力』……とかな。そこで、君に呪いを掛けさせてもらった。俺とキスをした時点で君は、永遠に現世を彷徨う『人ならざる者』と化し、元の身体に戻ることもできなければ、非現実世界に狙われることになる」
まりんちゃんの唇にキスをした祠の管理人さんは、鋭い目つきでそう言うと立ち上がった。
「まっ……待ってください!」
おもむろに身体の向きを変え、
「私に掛けられたあなたの呪いは……どうしたら、解けるのです?」
まりんちゃんに背を向けてすたすたと歩を進めていた祠の管理人さんが静かに振り向くと、
「君の疑いが晴れれば呪いは解ける。それまでは、絶対に解けない。どんな力を使ってもな」
真顔でそう返答すると、再びまりんちゃんを背にしてどこかへと去って行ったのだった。
――祠に侵入したのは、黒髪の青年だけじゃない――
たった今、ここを去っていた祠の管理人さんは確かにそう言っていた。黒髪の青年の他にも侵入者がいる可能性があると、そして
祠に侵入しただけでなく、堕天使の封印を解きなおかつ、堕天使と契約をしてしまったこともひっくるめて、まりんちゃんは彼に疑われているのでは……心当たりがあるだけに、そのことを思うと気が気でない。
セバスチャンさんが、祠の管理人さんとのやり取りを覗き見ていたのなら、その時点で知られざるまりんちゃんの秘密を知ったことになる。最悪、秘密を握るセバスチャンさんがまりんちゃんを脅すことも考えられるのだ。そんな、考えられないような、酷いことが起きないことを願うばかりである。
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