第27話 選択肢
「……確かに、いろいろと謎は残るけれど……私がゴーストなら、
不思議と、信じたくもない現実をまりんちゃんは受け入れたようだ。穏やかに微笑むと、
「けれど、私はもうとっくに死んでいたのね。物もちゃんと持てるし、学校で友達と会話して触れ合ったり、一緒にお昼ご飯を食べたり、普段と変わらない生活をしていたから、全然気付かなかったけれど」
まりんちゃんはそう、切なくも理解したように言った。間近でまりんちゃんの発言を耳にしたシロヤマ、細谷くんの二人には、それがとても生々しく聞こえた。
「あのさ」
不意に、気まずい表情をした細谷くんが口を開く。
「赤園はまだ……死んじゃいないよ。きっと、どこか安全な場所で生きてる。だから……希望を持とうぜ」
細谷くんはそう言って、まりんちゃんに微笑みかけた。希望が滲み出る細谷くんの笑顔を見たまりんちゃんの顔がみるみる赤面する。
好きな人の笑顔って、なんでこうも
「そうそう。折角、生きる希望を見出したんだし、ここで成仏しちゃうのは
細谷くんに同意するように、軽いノリで口を挟んだシロヤマがそう言ってウインクした。
「もちろん、そのつもりよ」
シロヤマを軽くあしらったまりんちゃんは改めてカシン様に顔を向けて尋ねる。
「今の私が、ゴーストになる前と変わらない生活を送れているのはやっぱり……あなたの仕業なのですか?」
「いや……それは私ではなく、君自身の仕業だろう。おそらく無意識のうちに、自身の特殊能力が働き、ゴーストになってもなお、通常と変わらぬ生活ができているのかもしれない」
あくまで、私の推測に過ぎないがね。
そっと言葉を付けたし、穏やかな笑みを浮かべて返答したカシン様が問いかける。
「赤園まりん。君に、改めて問う。現世に未練がなければこの場で魂を回収する。だが、まだ現世に未練があるのなら……このままの状態で残留決定だ。君なら、どちらを取る?」
今までとは打って変わり、真顔で尋ねたカシン様に、まりんちゃんは
「もちろん、まだ未練があるので、現世に残留します」
「君なら必ず、そう答えると思っていたよ」
ふっと、降参の笑みを浮かべたカシン様は言った。
「未練を晴らすといい。それまで我々は、君を見守ることにしよう」と。
こうして、死神結社との和解が成立し、命懸けの戦いは幕を閉じたのだった。
***
――我ら死神が君を狙う理由。それは……君自身が生身の人間ではなく、ゴーストそのものだからだよ――
死神総裁の肩書きを持つカシン様がまりんちゃんに告げたその言葉は、死神としての任務を遂行しかけたシロヤマにとって、その事態を再確認することとなった。
シロヤマには、堕天使によって命を奪われたまりんちゃんを蘇らせた過去がある。
その影響なのか、それとも他に何か原因があってそうなったのか。まりんちゃんがなんで、生身の人間ではなくゴーストになってしまったのか、それはシロヤマ自身もよく分からない。ゆえに、カシン様から『赤ずきんの
自宅の玄関前にいる対象者のまりんちゃんと対面した時、ポーカーフェースを装いながらも、シロヤマは内心動揺していた。なぜなら、頭からフードを被り、熟れたリンゴのように真っ赤なコートを着たまりんちゃんの顔や髪がほんのりと、透けていたからだ。
まりんちゃんが生身の人間ではなくゴースト化している。身体が透けていることでその事実に気付いたシロヤマは、あらゆる危険からまりんちゃんを守護することに
その一方で、まりんちゃんを、完全な形で蘇らせることができなかったことが原因と仮定するならば、それをした自分自身の
和解が成立した今、よほどのことがない限り、まりんちゃん絡みで結社はもう動くことはない。が、何が起きるか分らないので引き続き、気を引き締めて警戒を
魔力を操る死神として、今度こそ守り抜く。残忍非道な堕天使に、赤園まりんは渡さない。絶対に。
シロヤマは改めて身を引き締めると、頼れる社員とアルバイト店員の四人に後のことを任せ、店を後にする。
もっか、店長として副業先の花屋に勤務するシロヤマは、黒髪に髪と同じ色の目をした現世の人間から元の、死神の姿に戻ると、美舘山町の外れに位置する廃墟ビルへと向かったのだった。
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