第17話 白羽の矢
紅蓮の炎でかたどられた朱雀と不死鳥が、
攻防する二つの力を挟み、依然として対峙するまりんちゃんとシロヤマに動きはない。二人とも、面前のものを動かすのに集中しているからだ。
一方、セバスチャンさんと対戦する細谷くんに動きがあった。どんなに槍を駆使して攻撃してもサーベルを
セバスチャンさんとの対戦において、それを思い知った細谷くんは戦術を変えた。
完璧なように見えるセバスチャンさんでも、これは
まるで、細谷くんが結界の中に飛び込んで来るのを予測していたかのような口振りで、老剣士が静かに呟いた。
「やっぱり、来やがったか」
「セバスチャンと対戦中……蒼司様と、あんたの姿が目に入ってな。迷惑承知で
腕組みしながら仁王立ちをする老剣士と背中合わせになりながら、仏頂面を浮かべて細谷くんはそう、素っ気なく返事をするのだった。
「うっ……」
負傷した左肩が
「……怪我してんのか」
「別に、大した怪我じゃない」
「なら……いいがな」
声のトーンを変えずに返事をした細谷くんを、怪訝そうに
「んで、セバスチャンとの
決して振り向かず、
「……まだだ」
想定内の返事を聞き、にやりとした老剣士が呟く。
「そんなこったろうと思ったぜ」
「しょうがないだろう。今の俺じゃ、力不足なんだからよ」
「
この老剣士、見た目は
「あんたが張る結界の中が一番、安心だからな」
静かに返事をした細谷くんはそれ以降、口を閉ざした。
一時休戦モードに入った細谷くんは、何を考えているのか分らないシロヤマを
老剣士は金色の結界を、カシン様は銀色の結界を張り、双方身を護りながら空中で対峙している。その脚下では、真っ赤なコートにフードを被る赤園まりんちゃんの
「いい加減、諦めたらどうだい?」
「イヤよ!」
フンッと意地悪な笑みを浮かべて降参を勧めるシロヤマに、まりんちゃんは憤然と拒否。
「そっちこそ、諦めたら?」
「そんなのお断りだね」
素っ気なく勧めたまりんちゃんに、シロヤマはポーカーフェースで断った。
こうして読むと余裕のある会話だが、もっか対戦中の朱雀と不死鳥の、紅蓮の炎の暑さと気力の消耗とで、まりんちゃんとシロヤマの二人には余裕などない。
そんな最中、まりんちゃんはシロヤマを止める方法はないものかと思案する。が、考えたいのに頭がちっとも働かない。それもその筈だ。辛うじて残る気力と集中力とで分身となり、対戦する紅蓮の炎を支え、操ることで
そして、己の限界を悟ったまりんちゃんは、最後の力を振り絞り、操っていた朱雀を凍らせた。爪先から頭のてっぺんにかけて分厚い氷の中に閉じ込めた紅蓮の炎の朱雀にひびが入り、バリンと音を立てて
そろそろだな……
シロヤマがタイミングを見計らい、紅蓮の炎に向かって魔力を放つ。シロヤマが操っていた紅蓮の炎の不死鳥も分厚い氷の中に閉じ込められ、朱雀と同じ運命を辿った。
だらりとした、まりんちゃんの右手に握られた銀の剣が音もなく消えた。再び
ドスッ
駆け寄った村雨蒼司氏が、倒れかけたまりんちゃんを抱いて低い姿勢になったその一瞬、どこからともなく飛来した一本の矢が、シロヤマに命中。左胸に白羽の矢が刺さり、振り上げた大鎌が手から滑り落ちる音が屋上に響く。ガクッと、膝から崩れ落ちたシロヤマは、そのまま横向けに倒れて動かなくなった。
「シロ……ヤマ……?」
驚くあまり、頭が真っ白になったまりんちゃんは消え入るような声で問いかけた。が、屋上の床に倒れたきり、シロヤマは返事をしない。後ろからそっと肩を抱き、支える村雨蒼司氏の腕の中で、
「……おかしいよ。死神って……不死身なんじゃないの? なのになんで……動かないの?」
「まりん……落ち着いて、私の話を聞いてくれ」
しっかりと身体を支えながらまりんちゃんを宥めると、村雨蒼司氏は静かに話を切り出す。
「そなたの言う通り、死神は不死身だ。しかし……そんな死神にも弱点がある。
もしも、ここに飛来してきた矢に、死封の力が含まれていた場合……それを食らったシロヤマはもう……助からない」
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