Ⅱ. 魔力とフラワーアレンジメント勝負~死神結社と和解

第12話 魔力

 まりんちゃんと別れ、細谷くんは一人、シロヤマとセバスチャンさんの行方を追う。右手に持ったスマホを頼りに町内を走り廻った結果、細谷くんはついに二人を発見。

「ここにいたか」

 廃墟ビルの屋上にいる筈のない細谷くんの、冷静沈着な声に気付き、背を向けていたシロヤマが条件反射で振り向いた。

「細谷くん……? きみ、どうやってここに……」

 その声は、明らかに動揺している。冷静な表情をする細谷くんは、よどみなく返答。

「GPS。シロヤマに付けた発信機を頼りに町内を走り廻ったら、ここに辿り着いた」

 さらりとすごいことを言って退けた細谷くんの返答を受け、青ざめたシロヤマは慌てて身体中からだじゅうを調べる。細谷くんの言う通り、着ているジャケットの襟の裏に、それはひっそりと付いていた。


 い……いつの間にこんな物を!

 襟の裏に取り付けられた発信機を取り、指で揉み潰したシロヤマはちょっとした恐怖を覚えたのである。

「これでニ対一……俺の力がどこまで通用するか分からないが、少しはおまえの有利になる筈だ」

「そうだね。ぶっちゃけ、俺一人じゃ、彼を押さえつけることは難しかったろうし」

 気取った笑みを浮かべて返事をしたシロヤマは「彼女はどうしたんだい?」と尋ねた。顔色一つ変えず、細谷くんは静かに返答する。

「自宅に帰した。この戦いに、赤園を巻き込むわけにはいかないから」

「それは賢明な判断だ。さっきみたいに結界を張れば身を護ることはできる。が、セバスチャンさんの視界が行き届く場所に彼女を置いておくのは、危険だからね」

 ポーカーフェースで、シロヤマが返事をする。シロヤマに同意する形で頷いた細谷くんが真顔で口を開く。

「セバスチャンさんに赤園はやれない。なんとしてでも、ここで食い止める」

「同意見だ。結果がどうなろうと、今の俺達には、大切な女性ひとを護る義務がある」

 覚悟を決めたシロヤマの表情に、笑みが浮かんでいる。ふと気付くと細谷くんも、シロヤマとまったく同じ表情をしていた。


「……だからこそ、負けられない。シロヤマ! もう一度、俺と勝負しろ!」

 俄然、対戦モードになった細谷くんはぐっと身構えると、面前に佇むシロヤマに勝負を挑む。

「臨むところだよ」

 余裕綽々よゆうしゃくしゃくのシロヤマは不敵な笑みを浮かべると、対戦モードに入る。

「お互いに、大切な女性ひとを懸けて争う男達彼らの姿……これほどまでに美しいと感じたことはありません。私をもっと、楽しませてくださいね」

 突如として勃発ぼっぱつした戦いを、離れたところから見守るセバスチャンさんはそう呟くと、怪しげに微笑むのだった。



 美舘山町の外れにある廃墟ビルの屋上で、武器となる槍を携える細谷くんと対峙するシロヤマは、気取った顔に笑みを滲ませながらも、やおら口を開く。

「これは驚いた。俺の他にも、魔力を操る人間が、この町にいたなんてな」

「その口振りだと……おまえも、そうなんだな」

「ああ……そうだよ。死神になる前までは、俺も魔力使いだった。今じゃ、神力しんりょくの方が、使うことが多くなったけれど……時々、魔力を使うこともある。昔の名残ってやつだな」

 魔力まりょく。多くは、魔法使いが魔法を発動するのに用いる力のことを示すが、その言葉の意味は諸説しょせつあるとされている。

 実際に魔法陣を描いたり、魔法が発動するのと同時に光り輝く魔法陣が出現することこそないが、頭でイメージしたものを具現化し、地球上のあらゆるものを動かす念動力を兼ね備えた特殊能力も、魔力と呼ばれている。

 シロヤマも魔力の使い手であることを知り、同じく魔力の使い手である細谷くんは、最大級の警戒心を胸に、具現した槍を手に突進。細谷くんの槍と、シロヤマの銀の大鎌がカキィンと音を立てて交差し、火花を散らした。


「俺と力を合わせて、セバスチャンさんと戦うんじゃなかったのか?」

 刃を交差したことでお互いの距離が縮まったのを機に、真顔を浮かべるシロヤマがそう、小声で細谷くんに尋ねた。

「最初はそのつもりだったよ。だけど、今は違う」

 細谷くんは冷やかに小声で返答すると、声のトーンを低くして言葉を付け加えた。

「結果的に、俺はここに来て正解だった。こうして、シロヤマの足留めができるんだからな」

「細谷くん、きみ……なにか知ってる?」

 鋭い質問を投げ掛けるシロヤマが、何かに勘付かんづいたらしい。半ば抵抗するかのように睨め付けた細谷くんはやがて、鋭い口調で返事をする。

「これから、赤園のを刈りに行くんだろ? そんなこと、絶対にさせないからな」

 細谷くんはいたってまじめだ。そしてその言葉は意表を突いている。フッと気取った笑みを浮かべたシロヤマは、おもむろに口を開くと問いかける。

「それを、どこで知ったんだい?」

「おまえに付けていた発信機……あれにはちょっとした仕掛けがあってな。相手の居場所を特定するだけじゃなく、スマホのアプリを使って、盗聴とうちょうできるようにもしてあったんだよ」

「……っ!!」


 細谷くんの大胆不敵な仕打ちに、いよいよ恐怖に駆られたシロヤマが顔面蒼白になる。

「発信機に、なんちゅうもの付けてんだよ!」

 真顔でネタばらしをした細谷くんの言動に、シロヤマは怯える声でぼやくと、

「使い方によっちゃ、法の裁きを受けるから気をつけなね」

 相手が俺だから良かったものの……

 まるでスパイ映画さながらの仕打ちを受け、ひやひやしたシロヤマは、最後にそう言って細谷くんを注意したのだった。

「そうだな。これからは、おまえ以外の人間にはしないようにする」

「オイッ!」

 あくまで冷静な細谷くんの対応に、シロヤマは思い切りつっこんだ。

「一時休戦は解除だ。おまえの目的を知った以上、全力で阻止する」

「できるものなら、やってみな」

 フンッと、冷笑を浮かべたシロヤマは、闘志をみなぎらせる細谷くんを挑発。

 どんなにやる気があっても、歯切れのいい言葉を並べても、シロヤマの実力ちからの方が細谷くんよりも上廻うわまわっている。それを重々承知で攻防戦に挑むのだから、それなりのリスクがあって当然だ。

「見せてやるよ。俺の、本気ってやつを」

 シロヤマの大鎌と自分の槍を交差させたまま、威圧的な雰囲気を漂わせ、細谷くんは静かにそう言ったのだった。

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