第7話 副業
……マジか。いやいやいやいやこれは流石にヤバいでしょ。つか、町の中心部で別れてからそんなに時間が経ってないんですが……冥界へ戻った筈のあの人がなんで
思わぬ光景を目の当たりにし、驚愕したシロヤマは内心、慌てふためいた。
どうするよ……セバスチャンさんが相手だと、勝てる気がしねェ……けど、このままじゃ……
唇を噛んだシロヤマは、
「とりあえず今、言えることは……」
にわかに生じた動揺を
「ついに……ついに俺の名前が世に出たぞォォォ!」
「ああ、そうだな――って、それをいま言うのかよ!」
いヨッシャァァァ!! と、大きくガッツポーズをして叫びながら喜びを爆発させるシロヤマに対し、思わずノリツッコミをした細谷くんは拍子抜けした。
いきなり細谷くんと向かい合い、ただならぬ雰囲気で何を言うのかと思いきや、シロヤマが、自身の名が公に出た喜びを爆発させたのだ。それが予想外すぎて、細谷くんは思わず拍子抜けしたのである。
因みに……この物語のヒロインである赤園まりんちゃんが、半年前の過去を振り返るシーン(第1話参照)でシロヤマの名前は世に出ているのだが、もっか、呆れる細谷くんの面前で喜びを爆発させているシロヤマ本人はそのことを知らない。したがって、シロヤマは既に自身の名が世に出ていることを知らずに喜びを爆発させているのだ。
「ここで言わなきゃ、いつ言うの? 今、でしょ。俺はずっと、このタイミングを待ち続けたんだぞ」
真顔で腕組みしながら返事をしたシロヤマは、
「まァ、冗談はさておき……」
「冗談かよ!」
再び、飛び出した細谷くんのつっこみを挟んで、
「細谷くんちょっと……」
そう言って、セバスチャンさんに捉えられたまりんちゃんから離れた場所まで連れ出すと話を切り出した。
「手短に、用件を伝える。一刻を争う、緊急事態だ。よって……」
今までと打って変わり、
「まりんちゃん
かつて、『後楽園遊園地で、僕と握手!』と、当時人気を博していた戦隊ヒーローが、最後に視聴者に向けて手を差し伸べるテレビCMが流行っていた。細谷くんがまだ幼稚園児だった頃、両親が懐かしむようにそう教えてくれたのだ。おそらく、細谷くんの両親と同世代なのだろう。見た目は、二十代前半くらいなのに。細谷くんに握手を求めるシロヤマはまさに、その戦隊ヒーローと被っていた。
「……なんで、おまえと握手しなきゃなんないんだよ」
「きみの力が必要だ。セバスチャンさんは俺よりも手強い。下手すりゃ、致命傷を負いかねない。が、二人で戦えば負担は軽減する」
「俺達は、敵同士じゃなかったのか?」
「敵同士だよ。今は……ね」
「今は……?」
言葉を
「『この町に住む、赤ずきんの
さっき、この町の中心部でセバスチャンさんと遭遇して……結社から指令が出ていることを知り、俺にも手伝わせて欲しいって掛け合ったんだ。対象者のまりんちゃんを護るためにね。そしたら、セバスチャンさんが俺に譲ってくれたんだよ」
結社からの指令を遂行するフリをして、さりげなくまりんちゃんを助け、護る。それがシロヤマの、真の目的なのだ。ゆえに、シロヤマは最初から、まりんちゃんの魂を回収する気はない。指令を譲り受けた身として、それをしないのは事実上、放棄したことになる。最悪、結社そのものを敵に
「で? セバスチャンさんから指令を譲り受けたおまえが、赤園を護る理由はなんだ?」
まじめなシロヤマの話を聞き、そのことが気になった細谷くんが問い質す。
「敵と手を組むってことは、見方によっては結社を裏切ることになる。おまえにとって赤園は、味方を敵に廻してまで護りたい存在なのか?」
「まぁ、ある意味では……」
妙に鋭い細谷くんの問いに、シロヤマは曖昧に返答する。
「
「副業……?」
「うん。現世の人間に化けて隣の町にある、小さな花屋で働いているんだ。時々、まりんちゃんが店で買い物をしてくれることがあって……たまたま、俺以外の店員と楽しげに会話をするまりんちゃんの姿を見つけてね。その時に知ったんだよ。まりんちゃんが、フラワーデザイナー志望の学生さんであることを。しかも、小さな頃から思い描く夢でもあるんだって。そんな話を聞いたら、応援したくなっちゃって……だからもし、結社から指令が出たら、一人前のデザイナーにまるまで、まりんちゃんを護ろうって決めていたんだ」
手を差し伸べながらも、いささか照れ臭そうに微笑むとシロヤマは、
「そんなワケだから……セバスチャンさんから赤ずきんちゃんを奪還するためにも、協力してくれ」
気持ちを切り替え、自信に満ちる、気取った口調でそう言うと細谷くんに掛け合った。
「一時休戦……で、いいな」
「異存はない」
シロヤマの気持ちを
「今回だけだからな」
仏頂面でそう言うと細谷くんは「ああ」と返事をし、手を差し伸べるシロヤマと、がっちり握手をしたのだった。
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