第3話 執行者No.Ⅵ 【常闇の女帝】

 



「姫様っ……!」

「え、私の事ですか!?」



 私は襲撃者の女性に殺されると思い、目を閉じて静かに覚悟を決めながらその時を待って居たのだが、いつまで経っても何も起きやしない。恐る恐るそっと目を開けてみると何と襲撃者の女性が、私を見ながら泣いていたのだ。



「何と言う……お"い"た"わ"し"や"……うぅっ……」

「え、えと……え?」



 ど、どうすれば良いのだ!? 只でさえ女性経験が皆無の私に泣いている女性を慰める方法など分かる筈が無い。しかも、私の事を姫様と言ったよね? これ完全に人違いじゃ……でも、この状況で人違いですと言ったら殺されそうな気がする。ごくりっ……





 ――――――数分後――――――





「助けて下さり誠にありがとうございます。少しは落ち着きましたか?」

「姫様……お見苦しい所を見せて大変申し訳ありませんでした」

「あ、あの……実は私、自分の名前やこの場所が何処なのか全く分からなくて……」

「も、もしや……記憶喪失!?」

「へ? あ、いや……はい」



 もう面倒くさいので、私自身が記憶喪失だと言う事にしておこう。その方が何かと都合が良さそうだしね。



「妾の顔や名前もお忘れでございますか……!?」

「ご、ごめんね。何も思い出せなくて」



 あぁ、また泣きそうな顔をしてる。誰か助けてくれ! 私は女性の涙には弱いのだよ……女性経験は皆無だけども。



「そうですか……妾の名前は、キャロム・ベルマーレと申します。そして、貴方様のお名前はソフィア・フォン・リアスルージュ・ステイシア様……我々の組織、【ナイトメア】の盟主様の御息女で御座います」

「えと……ナイトメア? 盟主様? ひ、人違いとかでは無くて?」

「妾が間違える筈がございません! 姫様の魔力は特別なのです!」



 このまま話して行っても話しは平行線になりそうだな。とりあえず状況を整理して行こうか。



「分かりました。まずナイトメアと言う組織の事やこの場所が何処なのかを色々と教えて貰っても良いかな?」

「はっ! では……」





 ――――――――――――――――――





 それからキャロムさんに色々と教えて貰った。まずは、私が現在居る場所は、グラムハーツ王国の辺境の地だそうだ。ここから馬車で東へ半日走らせると【レアルカリア】と言う貿易が盛んな大きな港街があるらしい。



「そして、暗部組織ナイトメア。盟主様は……姫様のお母様で御座います。レオノーラ・フォン・リアスルージュ・ステイシア様を筆頭に、12人の執行者と言う幹部がレオノーラ様を支えております」



 盟主様って女性だったのか……てっきり男だと思ったぞ。どうやらその盟主様が、この世界での私の親みたいだ。ふむ……ナイトメアか。暗部組織と聞く限り何だか物騒な集団だよな。おじさんは平和に過ごしたいのだけどなぁ。争い事は嫌いだよ……



「それぞれの執行者の下には、大勢の配下や精鋭部隊がついております。組織を図で表すならば、盟主様を筆頭に下へと枝分かれしているようなイメージでございます」



 簡潔にまとめると……今の私の立場は、巨大なマフィアのボスのご令嬢と言う事なのかな? 2度目の人生、先行きが不安でしかないぞ……決して楽な道では無いか。



「そして、妾を含む12人の執行者達の名は……」





 ――――――





 執行者No.Ⅰ 【 超越者 】 

 セプテム・ケレブレム



 執行者No.Ⅱ 【 血濡れ姫 】 

 ノウェム・カルデリア⠀



 執行者No.Ⅲ 【 殲滅王⠀】 

 オクトー・ザレフキア



 執行者No.Ⅳ 【 月影の剣聖⠀】

 ルーナ・ユースティア⠀



 執行者No.Ⅴ 【 笑う道化師⠀】 

 ラクリマ・オペランディ 



 執行者No.Ⅵ 【 常闇の女帝⠀】

 キャロム・ベルマーレ⠀

 


 執行者No.Ⅶ 【 死神⠀】

 ウェンクトゥーラ・ベートリ 



 執行者No.Ⅷ 【 幽冥の支配者⠀】 

 ネクティオ・アイゼンベルク⠀



 執行者No.Ⅸ 【 破滅の聖女⠀】

 シャルロッテ・ランカスター



 執行者No.Ⅹ 【 金色の観測者⠀】

 オーロット・バードウェイ



 執行者No.XXⅠ 【 絶対領域⠀】

 マリア・フォン・リアスルージュ・ステイシア



 執行者No.XXⅡ 【 不死鳥⠀】

 フラムベスタ・アレクトー




 ―――――――――





 何だか名前からして凄そうな人達だなぁ。だけど1つ気になる事がある。執行者の名前一覧にマリア・フォン・リアスルージュ・ステイシアとあるのだ。



「キャロムさん、マリアさんと言う方と私の名前が似てる……」

「はい、マリア様はソフィア様のお姉様で御座います。ビーストテイマーで、危険指定ランクSSS級の氷神狼フェンリルを使役している優秀なテイマーです。そして、三度の飯よりソフィア様Loveな御方でもあり……自宅の部屋にソフィア様の……」

「うん、わ、分かりました。もう大丈夫です……」



 デジャブな予感。しかし、私にお姉さんか……元々一人っ子だったから何だか新鮮だな。中身46歳のおじさんだけど大丈夫だろうか……お姉さんと言ってもまだ若い女性だろう?



「姫様、まだゴミ虫達が残っていたみたいです。害虫は早急に駆除致します」



 そして、しばらくすると入口の方から山賊達の仲間とおぼしき人達がアジトへと戻って来たのだった。



「なっ!? お、お頭!?」

「こ、これは一体どういう事だ!」

「こんな事して只で済むと思って居ないだろうな!?」

「調教が必要だな」



 またイカつい人達が来たな……私が足をプルプルと震えさせているとキャロムさんが、私を庇うようにして前へと出てくれた。



「黙れ! この羽虫風情が……良くも姫様をこんな所に閉じ込めた仕打ち、死を持って償うがよかろう!」

「相手は所詮か弱い女だ! 数でねじ伏せるぞ!」

「美少女が二人……たまんねぇなぁ! 精神がおかしくなるまで犯して、奴隷商に売り飛ばしてやらぁ!!」



 山賊達が一斉にキャロムに襲い掛かろうと武器を手に取り襲って来る。



「誰が2人と言うたのじゃ? お前達、そやつらを無力化するのじゃ」



 気付けば暗闇の方から、黒いローブを身にまとった武装集団が現れる。



「あ、あいつは!!」



 あのゴリラみたいな顔……ここに連れて来られる前に私のお尻や胸を触った山賊だ! 異世界に来て、美少女に転生してから数分後に痴漢されるとは夢にも思って無かったんだぞ!



「姫様どうなさいましたか!?」

「あ、キャロムさんごめん。あの山賊に胸やお尻を触られてしまい……少しトラウマが」



 いかんな。私とした事が、これくらいの事でついカッとなってしまった。やはり、精神年齢も現在の身体の若さに引っ張られているのだろうか。つい涙が無意識の内に出てしまったぞ。



「ひ、姫様の玉体に触れた……だと!? その穢れた手で姫様の御神体を触ったと申すのか!?」



 しまった……余計な事を口走ってしまったかもしれない。キャロムさんの周りから、この世の物とは思えないドス黒く悍ましいオーラが漂っている。



「キャロム様!?」

「落ち着いて下さいませ! キャロム様が本気で暴れたらこの辺り一帯が吹き飛んでしまいますぅ!」

「心配するでない。妾も昔と違って、手加減という物を心得ておる」



 キャロムがゆっくりと山賊の方へと歩み寄って行く。口元を扇子で隠しながら歩く姿は気品に満ち溢れていた。キャロムさんの方が本物のお姫様みたいだ。美しい……



「な、俺達とやるってのか!?」

「雑魚が喚くでない。【 影縫の杭ファントム・パイル⠀】」

「うぐっ……身動きが取れねぇ」

「妾が直々に拷問をしてやろうぞ……光栄に思うが良い!」



 凄い……あれは魔法と言うやつか? この世界には魔法と言う概念が存在しているのだな。



「お前ら3人は先にあの世へ行くが良い。死ね」

「ぐはっ!?」

「あがっ……」



 うわぁ……キャロムさんえげつないな。流石に短期間で2回も人が殺される瞬間を見たせいか、少し耐性がついたのかもしれない。



「姫様の玉体に触れた羽虫には、凄惨な拷問をしてやろうぞ……うふふっ」

「ヒィィッ……!? す、すみません! ほんの出来心だったのです!」

「そんなに女性の身体が触りたいのか? ならば妾の胸を好きなだけ揉むが良かろう」

「えっ……良いのですか? ごくりっ……」



 え、キャロムさんまじで? あのゴリラみたいな山賊に自分の胸を触らせるの!? もしかして……キャロムさんは痴女なのか?



「触れるもんならな」

「ぎゃあああああああああっ……!? ゆ、指が!? 俺の指がっ……!?」

「あははっ……♡ その苦痛に歪む顔……妾の大好きな表情じゃ……もっと、妾にその顔を見せておくれ!」

「た、助けて! やだ、嫌だあああああぁぁぁ!!」



 ヒィィっ……!? キャロムさんめっちゃ怖い。ヤンデレみたいな目付きをしながら笑顔で、山賊の親指から小指まで一本ずつ切り落として居るよ……



「あらあら、両手の指が無くなってしまったのぉ」

「は、はひっ……あ、あぁ……」

「こんな汚らわしい腕があるのが行けないんじゃ。そうじゃ、中途半端は良くないよの。どうせなら、両腕と両足を切り落として、殿方のあそこも切断しておこうかの。さすれば今後は人畜無害になるじゃろうて……」



 こ、これは流石にやり過ぎなのでは……見てるこちらが耐え切れないよ! おじさんには刺激が強すぎる光景だよ!?



「あ、あの……キャロムさん、もうその辺で……」

「分かり申した。姫様のご慈悲に感謝するんだな。遊びはもう終いじゃ……死ね」

「あがっ……!?」



 こ、これが異世界なのか……何とも無慈悲な殺戮なのだ。私が住んでいた平和な日本とは違う。私の持ってる常識がここではどうやら通用しなさそうだな。



「レティはおるかの?」

「はっ! 何でしょうか、キャロム様」

「死体処理を頼む」

「了解致しました」



 そしてキャロムさんは、何事も無かったかのようにこちらへと近付いて来た。



「姫様……お目汚し誠に失礼致しました。レアルカリアの街までご案内致します」

「は、はい……」



 もう色々と疲れてやばい……とほほ。

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