第2話 山賊との遭遇
心地良い風……草原の上に寝そべっているかのような感覚だ。こんなに晴れやかな気持ちになったのはいつ以来だろうか。そして、目を開け起き上がると、綺麗な青空が何処までも広がっており、美しい草原や遠目で大森林があるのが確認出来た。
ここは明らかに自分が住んでた日本では無い。東京の都会では、まずお目にかかる事の出来ない美しい大自然だ。
「んん〜ふぅ……ん?」
え、私の手こんなに綺麗だったけ? いや、そんな筈は無い! こんな華奢で白い腕……私の腕は太くて毛深かかった筈だぞ?
「う、嘘だろ……私に胸があるだと!?」
自分の胸元に視線を下ろすとかなり……控えめに言うと巨乳クラスのたわわに実った胸が付いていたのだ。やけに胸元付近が重たいなと思って見たら……
「これが今の自分だと? これでは完全に女では……」
私は念の為自分の股間を確認した。しかしそこには、46年間ずっと一緒だった息子の姿は跡形もなく消えていたのだ!
「終わった……明るい家庭を夢見てたのに……しかも、私の息子を実践で使う事無く失ってしまった。性の喜びを知ること無く終わったと言うのか……」
この展開は昔読んだTS物のラノベにそっくりだった。しかし、私の内面は46歳のしがないおじさんだ。若い頃なら嬉しかったかもしれないが、今では喜ぶ程にもう心は若く無い。老いて久しいのだ……
「うっ……悲しいな。しかも、自分の声にめっちゃ違和感ある……」
自分の髪の毛を触ると絹のように細く滑らかな、美しい金色の髪が生えている。自分の顔を確認出来る手段が無いので、容姿がどうなってるのかは分からないけど、一つだけ言える事は、間違いなく女体化してるという事だ。肌も見る限り艶があって色白でスベスベだ。だが、悲しいかな……内面は46歳のおじさんだけどね。
「てか、いきなりハード過ぎやしないか? 何処だよ……ここ」
見知らぬ土地、自分の足元を見ると靴も履いて居らず裸足、身に纏っている服も中世ヨーロッパの奴隷が着るようなボロ布だ。しかも、太腿や胸元が顕となっており、布の面積が少な過ぎる。昔の私なら目の保養になるとか言ってそうだが、いざ自分が女になってみると、今は何とも複雑な気分である。
「ん、待てよ? もしかしたら夢と言う可能性も……痛っ!?」
自分の頬っぺたを思い切り抓って見たら痛みは本物だった。あ、これガチなやつだわ。本当に異世界に転生してしまったようだ。
「しかし、これからどうしろと言うのだ……こんな所に一人取り残されてもなぁ……」
その場を立って少し歩いてみたりジャンプをしてみた。やはり若い体は素晴らしい! 性別は変わってしまったが、間違い無く私の身体は若返っている! 身体が軽いぞ!
「お? あんな所に小さな泉があるな」
水面の反射で自分の姿を確認出来るかもしれないな。丁度喉も乾いていたし、向こうまで歩いて見るか。今の私なら何処までも歩いて行けそうな気がするぞ! 四十肩や腰痛に痛風等、おじさん時代は色々と身体にガタが来ていたけど、これが若い女の子の身体なのか! 気持ちも身体も色々と軽いぞ!
「すぅ〜はぁ〜」
空気が新鮮で美味しいな。私の曇っていた心が、少しずつ晴れやかになるような気分だ。裸足で草原を歩くのも悪くない。
「若いと言うのは本当に素晴らしい……これだけ走ってもまだまだ走れるぞ!」
人間40歳を過ぎると色々と身体にガタが来るのだ。私何て、高血圧、更年期、腰痛、痛風、肥満……上げるとキリが無い。
「よし、もう少しで到着だ」
近くで見るとそこそこ大きく綺麗な泉だ。昔、慰安旅行で行った長野県の綺麗な川と同じくらいに透き通っている。やばい、おじさん年甲斐も無くテンション上がって来ちゃったよ!
水面を覗き込んで見るとそこには、推定年齢20〜25歳くらいの金髪の美少女が水面に映っていた。私好みの妖艶な美少女……これが今の私の姿だと言うのか……可愛いのぉ。
「凄いバブみの深いお姉さんだな。右目の下に小さなホクロがあるのも、大人の魅力を更に引き立てておる。母性が強そうな印象だな」
不覚にもしばらく見蕩れてしまっていた。でも、何だか少し罪悪感もあるな。この美少女の中身が私だと言う事に……これくらいの年頃の女の子は、もっとピッチピチでフレッシュな言動や行動をするのだろうか? あ、ピッチピチと言う単語を使っている時点で少し古臭さを感じるか。よし、とりあえず水を飲んでみよう。
「ごぐごくっ……ぷはぁ! 何と言う美味しい水なのだ! 素晴らしい……これは良さ味が深いな」
しかし、こんなに可愛い女の子となったのに……服装がちとあれだな。ドレスとか着せたら間違い無く絵になりそうだ。さ、流石にミニスカートやスカート等は恥ずかしくて着れない……でも、この子にニーソックスを穿かせて、ミニスカートの絶対領域を見てみたい。絶対に似合う筈だ。絶対領域こそが至高!
「何だか変な気分だな……中身おじさんの俺が、絶対領域とか……おえぇぇええ」
私が欲望と言う名の煩悩と戦っていると、遠くから声が聞こえて来た。恐らく複数人の男達がこちらへと向かって来ているようだ。でも助かった……これで、何処かの街まで一緒に連れて行って貰えると助かる。
「お!? お頭!」
「ほほう、これはまた上物の女じゃねーか!」
「美人で胸もめっちゃでけえ!」
おいおい!? 嘘だろ!? 明らかに人相の悪い山賊みたいな格好をした男達が来たのだが!? これは早急に逃げないと何をされるかたまったもんじゃない!
「そこのねーちゃん。俺らと楽しい事しようぜ?」
「けしからん胸をしてやがるぜ……お尻も触り心地良さそうだ」
男達の下卑た笑い声が静かな草原に響き渡った。まだ状況確認も出来て無いのに、これは流石に酷くないか? てか、むさ苦しい男にいやらしい目線で見られると鳥肌が立って仕方が無い。
「あ、あの……貴方達は一体」
「イヒヒ……ただの通りすがりの山賊でぇーす! こんな極上の女は久しぶりに見たぜ。ケッケッ……」
「奴隷商に売ったら、高値で売れそうですぜ!」
「お頭! この女を飽きるまで犯してから売りやしょう!」
「おいおい、俺が先に楽しんでからだ! 心配するな、ちゃんと回してやるからよ!」
奴隷!? 冗談じゃないぞ!? いや、待てよ? この展開はテンプレではなかろうか? 私が美少女にTS転生したと言う事は、何かしらの戦えるチートがある筈。私が無双して、こいつらをぶちのめすと言う最高のシナリオが! 私が若い頃に憧れたあの伝説のシュチュエーション!
「ふぅ……君達、この私とやりあうと言うのかな?」
「お? この女やる気かぁ?」
「是非ベッドの上でやりあいたいものだぜ……ぐへへ」
「お前は俺達の性奴隷確定だ!」
若い者への教育も年長者の務めというもの。少し分からせてやる必要があるようだ。
――――――数分後――――――
何故だ……何で私が分からされているのだ!? この身体貧弱過ぎはしないか!? 私に戦えるようなチートは無いのか!?
「おら! 観念しな!」
「痛い! 触るな! 痴漢! 変態! ゴリラ!」
「やかましい女だな。まあ良いさ。アジトに連れ帰ったら、精神がおかしくなるまで、めちゃくちゃに犯してやるからよぉ!」
んうぅ……内心めちゃくちゃ怖い。男に這い寄られると言うのが、こんなにも恐ろしいものだったのか。私の精神も少しこの身体に引っ張られるかのように退化してるような気もする。くそ、ロープで手を縛られているせいで動けない……しかも、首輪までがっちりと付けられて……完全に私を逃がしてくれる気は無さそうだ。
「こんなことして……只で済むと思っているのか! 警察に捕まるぞ!?」
「あん? けーさつ? 何だそれ?」
「あ、そうか。ここは異世界だった……」
だ、誰かぁ……助けてくれぇ!! 美少女ちゃんとえちちな事するのは良いけど、受けのプレイはおじさん嫌だよ!? こんな不衛生で小汚い連中に犯されるとかマジで勘弁してくれぇ……間違い無くトラウマになってしまう!
「くそ! 離せ! 私に触れるな! 私は46歳のおじさんだぞ!?」
「は? そんなエロそうな声と身体してる癖におっさんだぁ??」
「咄嗟に嘘をついたつもりだろうが、もう少しマシな嘘をつくんだったな!」
「くくっ……アジトに戻ったら、女か男かちゃ〜んと確かめてやるからよぉ!」
これでは完全に犬と同じかそれ以下の扱いじゃないか。この世界に人権と言うものは無いのだろうか? せっかく第2の人生始まったばかりだと言うのにもう詰んだ。おじさん泣きそう……てか、もう泣いてる。
「おいおい、この女ビビって泣いてやがるぜ!」
「ほう、白いパンツか。お尻も触り心地最高だぜ!」
お尻を触るな! 気持ち悪い……あぁ!? こいつ私の胸まで触りやがって……っ!? うぐっ……何だこの感覚は……頭がおかしくなりそうだ。お願いだからやめてくれぇ……
「うぅっ……や、やめて……ぐだざい……」
「良いね! その表情が唆るねぇ!!」
「おい、お前らいい加減にしろ! その女で遊ぶのはアジトに戻ってからだ!」
お尻や胸を触られた……もう、お嫁に行けない……あれ? お嫁に行けなくて良いのか? しかし、女の子の身体とはこうも敏感なものなのか。触られるだけで、無意識に……
何だか急に眠く……口元に何かを当てられているのか? この布に何か仕込まれて……
「いひひっ……眠ったようだな? とりあえずこの女が目覚める前に、アジトに戻って牢屋にぶち込むぞ」
「「「へい!」」」
――――――???――――――
「ううっ……ここは一体……」
どうやら山賊達に私は誘拐されたらしい。薄暗い牢屋に湿った洞窟……手足に拘束具を付けられ鎖でガッチリと繋がれている。完全に詰んだ……私はこれから、山賊達のおもちゃになるのだろうか……怖い、誰かここから助けてくれ……
「お、目が覚めたようだな」
「…………」
「おいおい、なんだその目は?」
「キャッ……!?」
こいつマジかよ……普通女の子にマジモンの平手打ちをかますか!? くそ、めっちゃ痛い……足掻いても身動きが全く取れないこのもどかしさ。
「鎖で繋がれている美少女を見るとめっちゃ興奮するなぁ! 俺がお前の服を脱がしてやらぁ!!」
「や、やめて!! 来ないで下さい!」
「助け何て誰も来やしない。諦めて俺に犯されな。大丈夫、俺はこう見えても優しいからよぉ!」
「お、お頭! 大変です!」
「あぁん? これからお楽しみタイムだと言うのによぉ。何だよ」
「侵入者です! 仲間達が現在応戦中です!」
な、何だ!? 侵入者? また新手の変態か!? もうやだ……お家に帰りたいよぉ……こんな事なら自殺何てしなければ良かった……あぁ、さきいか食べながらエアコンの効いた部屋でビール呑みたい。
「お仲間と言うのは、こやつらの事かの?」
「ヒィィッ……!?」
「な、何もんだ貴様!?」
あ、あれは……山賊達の生首……本物だよな? あの女性が殺したのか!? うぅっ……吐きそう。本物の死体……グロ過ぎるだろ……夢に出て来そう。
「
何だこのプレッシャーは!? 山賊達が一斉に頭を地面に付けているぞ!?
「お、お頭! 身体が動きません!」
「言葉で行動を支配する魔法だと!?」
襲撃者の女性の身長は約175cm。かなりの高身長のお姉さんだ。漆黒のチャイナドレスに黄金の煌びやかな扇子を片手に持ち、カリスマ性溢れるオーラを身にまとっている。アメジスト色の美しいボブカットヘアーで、耳にはピアスを開けており、キリッとした綺麗な緑色の瞳……思わず見蕩れてしまう程の美人。そして何よりエロい……ごほんっ。何ともけしからん格好をしたボインなお姉さんだ!
「やかましい羽虫共じゃ……」
襲撃者の女性が扇子を開いた瞬間だった。
【
山賊達は黒いモヤの塊に包まれてあっという間に消滅した。そして、洞窟内には静寂が訪れる。
「あ、あの……」
山賊達の脅威が去ったと思えば……私も山賊達と同様にこのお姉さんに殺されてしまうのだろうか?
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