第3話 お互いに隠し事は無しで

「なぜお前が魔術を使えるんだ!?」


「結界だと!誰が教えたんだ!?

 アリーに魔術を教えるなと言っておいただろう!?」


私が結界を張ったことで誰もが動揺している。

魔術を習っていない私が魔術を使えたことに驚いているのだろうけど、

それよりも大事なことに気がついているだろうか。


結界を使えるような高度の魔術師はこの国にはいない。

世界の中でも辺境と言われるこの国に、そんな魔術師が存在するわけがない。

この国の予算すべてを使っても雇うのは無理だろうから。


その結界を目の前で使っている私に、

陛下がはっと気がついて猫なで声になる。


「なぁ、アリー。

 いつの間にそんな素晴らしい魔術を使えるようになったんだ。

 こんな素晴らしいアリーが娘になるなんて誇らしいよ」


「父上!?」


急に私を認める発言をした陛下に、王太子は慌て始める。

それはそうでしょう。だって……


「あら、私が王太子妃になることなんてありませんよね?

 だって、ただの生贄なのですから」


「「「「「!!!」」」」」


なぜそれを!と全員が顔に書いてある。

私に知られないように、誰も近づかせずに育てたのに、

どうして知っているんだと思っているんだろう。


「私が先ほどのことを誓っていたとしたら、

 すぐに誓約で縛られ、この国の奴隷になってた。

 そして、娘が生まれるまで好き勝手されるのですよね?

 王家、各貴族の主催で夜会が毎日のように行われ、

 私はその見世物として奴隷のように扱われる」


「そ、そんなことは……」


「私は本当は娼婦から産まれたんじゃない。

 先の生贄だった者からなのでしょう?

 陛下の元婚約者だったアリーから。

 あぁ、娼婦だというのは間違いじゃないですか。

 だって、そのように扱われてたのですものね」


「ア、アリー?誰がそのような嘘を教えたのだ?」


まだごまかせるのだと思っているのだから、本当にこの国は腐っている。


「あら、歴代の生贄はすべてアリーと名付けられるのですよね。

 苦しめるだけ苦しめて、すべての悪を押しつけて処刑する。

 夜会の開催も派手な交際費もすべてアリーのわがままだったと公表して。

 生贄は貴族たちの憂さ晴らしのために虐げられ、

 民の不満を解消するために石投げの刑で処刑される。

 ずっとそうやってこの国は続いているのですから……。

 そう、竜王国に無謀な戦いを挑んで負けた時からですね」


「どうしてそれを知っている!お前に教えたのは誰だ!?」


「すべて、知っていました。

 幼いころからずっと、真実を知った上でおとなしくしていました」


「そうか……それじゃあ、もう仕方ないな、捕まえろ」


あきらめるような声の陛下の指示で、騎士たちに周りを囲まれる。

騎士たちは私を囲んでニヤニヤしているけど、

どうやって捕まえるつもりなんだろう。

結界があるからさわられることもないし、剣で切られることもない。


もしかしたら結界を見たことのない陛下たちは、

結界を張ったままじゃ動けないとでも思っているのかもしれない。

実際にはこのままでも歩き回れるし、姿を消すこともできる。

短い距離であれば転移して逃げることもできるのだけど。


ここから逃げるのはいいけど、何か言い残したことはないか悩む。

陛下を殺すのは簡単だけど、さすがにそれをすれば逃げにくくなる。


歴代のアリーたちのためにも、どう仕返ししてやろうか。


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