第2話 アリーは誓わない

私が誓わないと教師に言ったことで、

すぐさま謁見室に引き立てるように連れて行かれる。


連絡をしたのか、謁見室には王族の他に私の父親もそろっていた。

その他に宰相、騎士団長も立ち会うようだ。


そのすべての者ににらまれ、ぐるりと囲まれる。

ここに私の味方になる者はいない。



「アリー。話を聞いて驚いたよ。

 いったいどうしたって言うのだ」


でっぷりと太った陛下が、大きな椅子に座ったまま問いかけてきた。

話していいという許可は出ていないし、まだ礼をしたままだ。


最高位への礼は深く、そのまま続けているのはつらい。

それでも、こんなことには慣れている。


一時間、王妃と話す間このままだったこともあるのだから。

話す許可が出ていないので無言なのは当然。

それなのに答えないのが悪いと怒り出すのだから始末が悪い。


ここに王妃がいたら扇子が飛んできただろうなと、

考えている間も陛下の文句は続いていた。


「お前の教育のためにどれだけの人員、お金がかかっていると思っている。

 お前はずっとこの王宮で暮らしていたのだぞ。

 それもすべては王太子妃になるためだ。わかっているのか?」


私の教育って、間違ったことを教えられても否定せず、

ただわかりましたというだけの授業。


あれは教育ではない、調教と呼ぶものだ。

すべて、今日のあの一言を誓わせるためだけのもの。


お金だって王宮に住んでいるだけで、

貴族としてはほとんどかかっていないようなものだった。


私の母親は娼婦だったと聞いた。

孤児院に預けられた時、髪色が貴族でしかありえない銀色だったために、

父親が公爵家当主だということが判明し、

同時期に生まれた王太子の婚約者として王宮に上がることになった。


父親と言われている公爵家の当主とは、

年に三度ほど顔を合わせるだけで、ほとんど会話もない。

親子の情というものは全く存在しなかった。


王宮での生活は最低限のものしかない部屋で、

最低限の世話だけがされていた。

侍女もほとんど部屋に来ることもなく、

食事は日に二度、乾いたパンと焼いただけの肉が少し。


会話する相手もいず、学園に通うこともない。

この国の貴族として生まれたのなら必ず習う魔術は、

存在すら教えてもらえていない。


それもこれも、すべてあの誓いをさせるためのこと。

誓約魔術によって、私の自由をすべて奪うために行われた嘘。



「顔を上げろ。発言も許可する」


ようやく文句を言い終わったのか、顔を上げるように言われる。

おそらく、この場で私を追い詰めて、もう一度誓わせようとするのだろう。

私に何も説明せずに、誓約魔術で自由を奪うために。


「もう一度確認させるから、今度は間違いなく誓うように」


「嫌です。ぜったいに、嫌です」


「「「「「……!?」」」」」


まだ拒否するのかと誰もが驚愕している中、

後ろから騎士団長が私の腕をつかもうとしたのに気がついた。

力づくで誓わせるつもりなのか。


それをさっとよけて、自分の周りに結界を張る。


「な!?」


「さわらないでくれる?」


六角柱の結界の光に包まれ身を守る私に、誰もが驚きの声をあげた。


「なぜお前が魔術を使えるんだ!?」




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