第34話
町田の相談とは早い話がこういうことだった。
実は町田は前から有栖川のことが気になっていた。
何とかして接点を持ちたいと思っていたが、本人が人付き合いを避けているきらいがあるので、町田も有栖川に話しかけることに抵抗があった。
だが最近有栖川は、クラスで孤立することをやめて、他の生徒たちと関わりを持つことに以前よりも積極的になっているように見える。
よって町田としてはそんな有栖川に少しでもお近づきになるべく、仲介人を探している。
そしてそんな町田と有栖川の中を取り持つ映えある仲介人として白羽の矢が立ったのが、他ならぬこの俺、ということらしい。
「加賀美って有栖川と仲良いよな?」
「…どうだろう」
「最近クラスでよく話してる気がするんだが」
「…まぁそうだな」
「連絡先とか持ってるか?」
「一応」
俺が頷くと町田の表情が一気に明るくなった。
期待するような視線が俺に向けられる。
「確認なんだが…加賀美と有栖川って付き合ってるわけじゃないんだよな?」
「ああ」
「ただの友達って感じか?」
「まぁ、そんな感じだ」
「そうか。まぁそうだよな」
わかってはいたことだが、一応確認しておいた。
町田の言い方はそんな感じだった。
そりゃあ、俺と有栖川が付き合っているなんて少なくとも外見的に見たらあまりにも釣り合いが取れてなさすぎてあり得ないことかもしれないが、それでもそんな態度を隠そうともしないというのはどうなのだろうか。
「有栖川の連絡先、俺に教えてくれないか?」
「うーん…それはどうなんだ?」
連絡先を持っているかどうか聞かれた時点で予想できたことではあったが、やはり町田は有栖川の連絡先を欲しがった。
それに対して俺はすぐに首を縦に振ることができなかった。
途端に町田の表情が曇りだす。
「ダメなのか?」
「一応有栖川に確認しておきたい」
「別によくね?俺だって有栖川とクラスメイトなわけだから…後から報告するんじゃダメなのか?」
「そうかもしれんが…あいつの恨みを買いたくないし…」
「…」
町田が俺を睨む。
こいつ面倒臭いな。
そんな感情が透けてみてた。
気持ちはわかる。
俺だって町田に意地悪をしたいわけじゃない。
だが勝手に連絡先を誰かに教えたとしれた
ら、有栖川の恨みを買ってしまうかもしれない。
だから結果的に町田に連絡先を教えることになるにしても、一度有栖川に確認をしておきたかった。
「悪い。でも多分有栖川は許可すると思う」
「…どんな感じで聞くつもりなんだ?」
町田が探るような目で俺を見る。
「町田が友達になりたいって言ってるって、そういう感じでいいか?」
「…それで頼む」
まさか俺だっていきなり有栖川に、町田がお前のこと好きらしいから連絡先教えてもいいか、などと聞けるほどデリカシーがないわけではない。
俺の答えに満足したらしい町田は、ようやく俺を解放してくれた。
俺は町田と共に教室へ戻る。
「何だったんだ?」
席につくなり、御子柴がそう聞いてきた。
俺は誰にもいうなよ、と前置きしてから声を顰めて町田との会話内容を簡単に伝えた。
「町田は有栖川と仲良くなりたいらしい」
「有栖川と?」
「ああ」
「それって好きってことか?」
「さあな。でもそんな感じに聞こえた」
「なるほど。つまりあれか。直接本人にアプローチする勇気がないから、お前を利用して近づくつもりか」
「もうちょい言い方あるだろ」
「でもそういうことだろ?」
「まぁな」
御子柴の身もふたもない言い方に俺は渋々頷きを返す。
「具体的には何して欲しいって言われたんだ?」
「連絡先欲しいって言われたな」
「教えたのか?」
「いや…一応有栖川に確認させてくれって言っておいた」
「懸命だな」
御子柴も俺と同じ考え方のようだった。
「多分有栖川はお前が勝手に町田に連絡先教えたって知ったら怒ると思うぞ」
「…怒る?何でだ?」
「いや、そりゃ怒るだろ」
「そうか?あいつなら別にいいよ、勝手にすれば?みたいな興味なさそうな反応になると思うが」
「…お前まじか」
御子柴が愕然とした表情で俺をみた。
「マジかって何だよ」
「いや…うん…なんつーか…えーっと」
「なんだよ」
はっきりとしない御子柴。
俺をみながら、何やら微妙そうな表情を浮かべている。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「…まぁそうだよな。お前だもんな」
「…なんなんだよ」
と思ったら何やら納得げに頷いている御子柴。
本当にこいつは何なんだ。
俺は御子柴の不可解な一連の態度に首を傾げる。
「とにかく、一つアドバイスするとすればあれだな…あんまり前のめりになって有栖川に町田に連絡先を教えてもいいかって聞かない方がいいな。聞くにしてもあくまで自分は不本意であります、みたいな感じを言外に滲ませるんだ」
「…何でそんなことしなきゃならないんだよ」
「ともかくそうしておけ。それがお前のためだ」
「…わけがわからんな」
御子柴はたまにこういうわけのわからないことを言い出す。
いちいち相手にしていても仕方がないので、俺はこの御子柴のよくわからない忠告を聞き流すことにした。
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