第33話
どうやら有栖川の人気は本格的に高まっているらしい。
そう実感するような出来事が起きた。
ある日のこと。
いつものように俺が御子柴のくだらない話に耳を傾けていると、一人の男子生徒が俺たちの方へと向かって歩いてきた。
自慢じゃないが俺は友達が少ない。
具体的にはおそらく、友達と呼べる関係の人間は有栖川や星宮を除くと、御子柴ぐらいしか思いつかない。
なので近づいてくる男子生徒に関して、もちろんクラスメイトなので名前は知っていたものの、今までに業務連絡以外に一度も会話という会話をしたことがなく、向こうは俺の名前を知っているかどうかも怪しいというような関係だったため、御子柴に用があるものだと思った。
きっと御子柴に何か伝えることでもあるのだろう。
そう思っていて油断していた俺は、果たしてその男子生徒に名前を呼ばれて心底驚いてしまった。
「加賀美?だよな」
自信なさげに俺の名前を呼ぶ男子生徒に、俺は頷きを返す。
「俺のことわかる?」
「町田、だろ?町田優」
バスケ部であることも知っている。
俺が町田の名前を言い当てると、町田は笑顔になった。
「そうそう。町田優。なんか加賀美とこうやって話すの何気に初めてじゃね?」
「そうだな」
何気にではなく、絶対に初めてだ。
クラスに交友関係をほとんど持たない俺は、クラスメイトとの会話を何気ないものであったとしてもほとんど覚えている。
記憶力がいいのではなく、友人が少ないものの悲しきさがってやつだ。
それにしても町田が一体俺に何のようなのだろう。
町田はスクールカーストの中でも上位に位置するグループに所属している。
一軍の六道率いるグループではないものの、その一つしたの大体二軍ぐらいのグループの中心メンバーであり、それなりにクラスに対して求心力も影響力も持っている。
そんな町田が、自分から俺に話しかけてくるなんて事態は、はっきり言ってかなりのイレギュラーだ。
まさか俺と友達になりたいとかそういうことではないだろう。
俺が警戒しながら聞いていると、町田は唐突にこんなことを言い始めた。
「実はさ…ちょっと加賀美に相談したいことがあるんだよね。いきなりで悪いんだけど」
「相談?」
「そう。ここでは話せないから、どっか二人で話せない?」
「…」
俺は御子柴を見た。
御子柴が言ってこいと言わんばかりに顎をしゃくる。
俺は町田に対して頷きを返した。
「わかった」
「助かるわ。ごめんな、御子柴。ちょっと加賀美借りるわ」
「おう。返却はしなくていいぞ」
「おい」
「ははは」
御子柴のつまらない冗談に、町田は性格の良さそうな愛想笑いを見せる。
そんなわけで俺は御子柴を教室に残し、二人で廊下の人気のない場所までやってきた。
「あー、なんて言ったらいいか…えーっと、すげー恥ずかしいんだけど」
さて、いざ二人きりになった町田は、俺を前にして途端に躊躇うようなそぶりを見せ始めた。
その頬は僅かに赤く色づき、遠慮がちな視線がちらりちらりと俺に向けられる。
俺の中で一つの可能性が浮かび上がり、背筋がぞわりとした。
「ま、町田…お前まさか…」
「え…?」
「す、すまない…多分お前の望みには応えられない…」
「え…は…?」
「俺は…ノーマルだ」
「…」
俺がそういうと町田が真顔になった。
気まずい沈黙が周囲を支配する。
しばらくして町田が呆れたような目を俺に向けながらいった。
「いや、俺もノーマルだぞ」
「え…」
「つか、仮にそっち系だとしても加賀美は選ばねぇだろ」
「…」
それはそれで酷くないか?
というかそれが今から相談する人間の態度かよ。
そう言いかけたが、よくよく考えたら悪いのは勘違いをして空気を悪くした俺なので、素直に謝っておくことにした。
「すまん」
「加賀美って変なやつだったんだな」
「…」
俺って変なやつなのか。
ちょっと元厨二病で友達が少ないだけで、それ以外はごく一般的な男子高校生だと思っていたんだが。
「相談っていうのは」
「ああ…」
釈然としないまま、俺は町田の相談とやらに耳を傾けるのだった。
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