第24話


『み、宮代くんどうしてここに!?帰ったんじゃなかったの!?』


『お前のことを待ってたんだ。勘違いされたままなのは嫌だったから』


『どう言うこと?宮代くんはもう私と関わるのも嫌じゃなかったの?』


『違うんだ、あれは誤解なんだ!むしろ俺は…!』



「はいカット!そこまで!」



監督と思しき男が、撮影を一旦止める。


そして役者たちに対してあれこれ演技の指導をし、修正を加えている。


俺はそんな様子を校舎の屋上からぼんやり眺めながら感心していた。


「星宮って本当に芸能人なんだな」


「あんた何言ってんの今更」


隣から有栖川の呆れたような声が聞こえてくる。


「テレビとかつければよく映ってるじゃん。私でも知ってるよそのぐらい」


「…まぁそうなんだけどな」


有栖川のいう通り、星宮が国民的人気のある芸能人であることはこの学校の誰もが知っている。


一日中テレビをつけていれば、一回は星宮が映るだろうし、SNSを使っていれば、毎日のように星宮に関する投稿を目にする。


グラビアの表紙を飾ったり、ドラマに出たり、CMに出演したり。


星宮は今や同世代の芸能人の中で間違いなく日本一有名と言っても過言ではない存在になっている。


だからこそ、だ。


そんな彼女が自分と同じ学校、同じクラスに通っていることにいまいち現実感が湧かないし、なんなら連絡先を交換して大体毎晩ちょっとしたメッセージのやり取りをしていることなんか、夢なんじゃないかと思うことさえある。


普段、星宮と接しているとたまに星宮が芸能人であることを忘れてしまいそうになる。


もちろん星宮の容姿は芸能人レベルで、すれ違う男全員を振り返らせるほどに魅力的だが、星宮の周囲に対する態度は全然気取ったところがなく、有名人であることを鼻にかける様子もなく、あくまでもクラスメイトの一員といった感じだ。


だがこうして今、多数のカメラを向けられながら、堂々と演技している星宮を見ると、やはり彼女が芸能人であるということを思い出

さずにはいられない。


星宮の演技は、普段の彼女からは考えられないほどの気迫とプロ意識が感じられた。


たくさんのスタッフに囲まれ、ライトを当てられ、堂々と演技している彼女をみていると、やっぱり自分とは住む世界が違う人間なのだということを嫌というほど思い知らされる。


「はぁー、だる。なんでわざわざうちの高校を舞台に選んだわけ?」


俺の隣で撮影中の星宮たちを見下ろしながら、有栖川が吐き捨てるようにいった。


星宮の所属している事務所が、今話題の青春恋愛漫画のドラマに主役として星宮が出演すること、そして舞台は星宮が現在通っているここ、東高校になることを発表した時、東高の生徒たちは大騒ぎになった。


この情報は瞬く間にSNSを通じて全生徒に広まり、いろんな憶測とか噂が飛び交った。


いろんなことが言われていたが、大抵の生徒が浮き足立っていた。


星宮の撮影現場を生で見ることができる、もしかしたら脇役とかで出演できるかもしれないと、興奮気味に語る生徒が大半だった。


俺の知る限り、俺の周りで東高がドラマの舞台になることを喜んでいないのは俺を覗いて有栖川ぐらいだ。


「もしかして星宮が言い出したわけ?まじ迷惑なんだけど」


「いや…あいつはむしろ反対したみたいだぞ」


「はぁ?」


俺はあらかじめ星宮から東校が舞台になることを教えてもらっていたので、ある程度事情も把握している。


「これは監督の案なんだと。今回のドラマはヒロインが星宮と同じ年齢の女子高生だろ?だから、現役女子高生の星宮が実際に通っている自分の高校を舞台にして演じた方が、よりリアリティーが出て話題にもなるだろうってそういうことらしい」


「へー、そ」


「加えてうちの高校、五年前に校舎建て替えてそれなりに新しいだろ?だから舞台とするのには最適だったらしい。それと、この話を持ちかけられた校長も乗り気だったみたいだな。いい宣伝材料になるって」


「…何それ。大人の事情ってやつ?」


「じゃないのか」


「はぁ…面倒くさ」


「まぁつまり星宮は悪くないってことだ」


「…そーなんだ。ま、どうだっていいけど」


「星宮は反対したんだけどゴリ押されたそうだ。あいつの事情もわかってやれ」


「…星宮のことなんてどうでもいい。てか…あんたなんでそんなに詳しいわけ?なんかきもいんだけど」


「え…」


ギロっと有栖川に睨まれる。


「普段星宮について調べてるわけ?ひょっとしてストーカー?」


「ち、違う!そういうんじゃない!これは星宮が言っていた話だ!」


「星宮があんたに?」


「そうだ!絶対に表に出さないって約束で、あらかじめうちの高校が舞台になることを教えてもらったんだよ」


「へー…そんなことしてたんだ」


有栖川が眼下の星宮を見て目を細める。


「私がいうのもあれだけど、そういうのってよくないんじゃない?もしあんたがその情報を漏らしちゃってたらどうなってたの?」


「お、俺はそんなことしない…と、星宮は信用してたんじゃないか?」


「でも、わざわざそんな危険犯す必要なくない?黙ってればいいのに、なんであんたにだけそんなこと言ったわけ?」


「わ、わからん…あいつに直接聞いてみないと…」


「なんかさー…はぁ…なんか、だる」


「なんだよ。気分が悪いのか?」


「違うし。だる」


だるいだるいと何がとは言わずに連呼する有栖川。


今日は相当虫の居所が悪いみたいだ。


俺は下手に刺激しないように注意しながら、星宮の演技を屋上から見守るのだった。



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