第22話


そして迎えた定期テスト最終日。


「そこまで。終了だ。すぐにペンをおけ」


試験官の教師がそう言って最後のテストが終了した。


答案が回収されていき、試験官が全員分があるのを確認してから試験終了を告げ、教室を出て行った。


途端に、教室内の空気が弛緩する。


「終わったぁああ」


「長かったぁああああああ」


「二重の意味で終わったぁああああ」


「今回の定期まじやばいかも」


「徹夜続きでマジ眠いわ」


「俺今回マジやばいかも」


「今回マジ難しかったくね?」


「今回は勉強してたから全体的にいけたわ」


「打ち上げどこいく?」


「試験終わったし放課後は遊びに行こうぜ」


「カラオケとかいかね?」


「いいね」


クラスメイトたちは、今回の定期テストの感想を言い合ったり、出来の悪さを嘆いたり、打ち上げの場所を話し合ったりしている。


そんな中、有栖川が俺の元へ歩いてきた。


「んー、疲れたぁ〜」


ぐーっと伸びをする有栖川。


俺はそんな彼女に出来のほどを聞く。


「どうだったんだ?」


「大丈夫だった。多分、赤点はないと思う。あんたのおかげ」


「…そうか。お疲れ様。とりあえず自己採点しておこう」


「ん。そうだね」


俺は有栖川と早速自己採点を始めた。


30分後、おおよその有栖川の点数が判明した。


今日実施された二科目どちらも60点を超えており、赤点を大幅に回避していた。


その結果に、俺はほっと胸を撫で下ろす。


「これで全科目赤点回避か…」


「そうみたいだね」


「信じられんな」


思わずそう口にしていた。


まさか有栖川がここまで全科目においてここまで高得点を取るなんて、勉強を始めた当初は予想だにしなかった。


今日の結果を受けて、有栖川の全科目の平均点は少なくとも50点を超えているという結果になった。


これはどういうことかというと、少なくともテストの点数によって有栖川が留年する可能性はなくなったということだ。


特定の科目で学年最低点を取るほどに低迷していた前回の定期テストからこの結果は、かなり飛躍的な成長と言えるだろう。


まさか有栖川がここまで飲み込みが早く、地頭がいいとは思わなかった。


「お前マジでよくやったよ」


俺は有栖川に拍手を送る。


有栖川が照れくさそうに人差し指で頬をかいた。


「…私はただあんたに言われたことやってただけだから。ほとんどあんたのおかげみたいなもんだから」


珍しく素直にそんなことを言う有栖川。


だが今回の功績は、本人の努力によるところが大きい。


学ぶ気がないものにいくら教えたところで無意味だ。


その点有栖川は、テスト対策と相当真摯に向き合った。


その成果が、真っ正直に結果に反映されたと言っていいだろう。


「いや、お前の努力の賜物だよ。俺は手助けをしたに過ぎない」


「…マジでそんなことない。正直、あんたがいなかったら私は留年確定してた。進級はとっくの昔に諦めてた。でも…あんたのおかげでまだこの学校でやっていけそう」


「…そうか。まぁ力になれたのなら良かったよ。あとは出席日数だな。もうなるべく遅刻とか無断欠席はしないほうがいい」


「…うん。もうしない。あんたがしてくれた

こと、無駄にするようなことはしない」


「…なんか今日はやけに素直だな。変なものでも食ったか?」


「うるさい。今日はそう言う気分なの」


有栖川の自己採点を終えて留年の懸念が払拭された俺は帰り支度に取り掛かる。


長いテスト期間が終わった。


明日からまた普通の日常に戻れる。


「それじゃあ、俺は帰るわ」


「ちょっと待って」


「なんだ?」


帰ろうとした俺を有栖川が引き止める。


「これで終わりじゃない…でしょ?」


「何が?」


「だからその…」


有栖川はらしくもなくもじもじとしながら、蚊の鳴くような声で言った。


「テストが終わったから…明日からもう話しかけないとか、関係を断つとか…そう言うのはなしだから」


「そんなことしねぇよ。逆にこんだけ毎日一緒に勉強していきなり喋らなくなるほうが不自然だろ」


「…そ、そうだよね!」


有栖川がほっとしたような表情になる。


俺はそんな有栖川に手を振って教室を出た。


「じゃーな、有栖川。とりあえず、今度何か奢れよ。食堂で、500円以上のやつな」


「うん…わかった」


妙に素直な声が背後から聞こえてきた。




後日、テストの答案が返却された。


自己採点通り、有栖川は全ての科目で赤点を回避しており、平均点は65点だった。


うちの高校では前期と後期の二度の定期テストの平均で点数を出し、赤点は25点以下となっているため、有栖川は前期と平均しても全科目で赤点を回避することになった。


これで有栖川は少なくともテストの成績で落第し、進級できなくなると言うことは無くなった。


あとは遅刻癖と、無断欠席をしなければ、進級することはそう難しくはないだろう。


ちなみに有栖川の飛躍的な成績の向上に担任も驚いたようで、わざわざ朝のホームルームの時間に有栖川をみんなの前で褒めていた。


「有栖川!本当によくやったぞ!!先生はお前が留年するんじゃないかと心配していたが、今回のテストで安心した!!本当によく頑張ったな!えらいぞ!」


「はぁ」


「最近は遅刻も欠席もしていないみたいだな!この調子で頼むぞ!先生自分のクラスからは誰も留年させたくないからな!」


「はぁ」


「いやしっかし、短期間でこんなに成績が上がった生徒を先生は見たことないぞ。一体どう言う心境の変化だ?恋でもしたか?有栖川」


「…っ」


「お、顔が赤くなったな。そうかそうか。青春だな!ははははは!」


「違い、ますからっ」


担任教師に揶揄われ、顔を赤くする有栖川はちょっと新鮮で面白かったとだけ付け加えておく。

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