第21話


それから数日後。


定期テスト初日。


もうすぐで最初の科目のテストが始まろうという時間に、俺は有栖川と最後の確認をしていた。


「こことここは出るだろうから、覚えとけよ」


「わかってるって。覚えてるから大丈夫」


「テスト中はパニックになるなよ。常に落ち着いて冷静さを保て。わからない問題は飛ばしてわかる問題から解くんだぞ」


「はいはい」


俺はテスト前の最後の時間に有栖川にいろいろとアドバイスをする。


今日まで毎日有栖川のテスト対策に付き合い、出来ることはやってきた。


あとは今日までに培ってきた実力をしっかりとテスト本番で発揮できるかが勝負だ。


「あんたは大丈夫なの?」


有栖川がテスト中にパニクったりしないだろうかとそんな心配をしていると、逆に有栖川の方から俺にそう聞いてきた。


「私に勉強教えてばっかりで、自分の勉強できてなかったんじゃないの?」


ちょっと申し訳なさそうにそんなことを言ってくる。


「いや、そうでもないぞ」


俺は心配そうな有栖川に首を振った。


「お前に教えながら俺だってきっちり自分の勉強はしていた。それにお前に教えることでむしろ細部の理解が深まった。お前と違って俺は普段の授業も真面目に受けてるからな。

多分いつもと同じぐらいの順位がキープできるはずだ」


「あっそ。お前と違ってとかわざわざ言わなくていいから。ほんと、一言多い」


「お前は俺のことなんて考えず、自分のことに集中すればいいんだよ」


「わかってるし」


そう言って有栖川が自分の席に戻って行った。


程なくしてテストが始まった。


俺はテスト用紙をざっと確認し、俺が有栖川にここは出るはずだと予想して何度も解くように指示した問題がしっかり出題されていることを確認し、頬を歪ませる。


これで有栖川の赤点回避の可能性は大幅に広がったはずだ。



キーンコーンカーンコーン…



「はいやめ、そこまで」


それから数時間後。


一日目のテストが終了した。


「お前できた?」


「終わったわ」


「マジで難しかった」


「やべぇ…ミスったかも」


「意外とできたわ」


「今回難しくなかったか?」


生徒たちが初日の感想を言い合う中、有栖川が俺の元へやってきた。


「どうだったんだ?」


「できた」


有栖川が自身げにいった。


「本当か?」


「まじまじ。こんなに問題解けたの生まれて初めて。いつも開始10分ぐらいで解ける問題なくなって暇になるのに、今日は最後まで解いてた」


「どれぐらいできたんだ」


「解ける問題は全部解いたと思う。てか、8割ぐらい出来たよ」


「…本当だろうな」


ここまで自信ありげだと逆に不安になってくる。


「テスト用紙に答えは書き込んでるだろうな?残って自己採点するぞ」


「りょーかい。ちなみにあんたはどれぐらい出来たの?」


「ほぼ全部解けた。90点以上は硬いだろうな」


「ドヤ顔うざ」


大半の生徒たちが教室を出ていく中、俺と有栖川は残って自己採点をした。


俺の解答と有栖川の解答を照らし合わせていき、大雑把に点数を出していく。


「最高75点…最低でも62点…ってとこか」


「えー、そんなもんなの?もっと出来たかと思ったのに」


果たして初日の有栖川の点数を採点してみると、二科目とも最低でも60点を超えていることが判明した。


本人は80点ぐらい取れているつもりだったようだが、ケアレスミスが思ったより多く、最終的な点数は10点から15点程度低かった。


とはいえ、二科目とも6割以上は快挙である。


赤点は25点からなので、実に赤点の倍以上の点数を取ったということになる。


「お前やるな」


俺は感心して有栖川を見た。


「もっと出来てるかと思ったのに」


そんなことを言いつつも、有栖川が喜んでいるのは丸見えだった。


珍しく挙動不審に、顔や制服のあちこちを触ったりしている。


「こんなに出来たの初めてだから、慣れないか?」


「…うん」


俺がそう聞くと、案外素直に認める有栖川。


「ちょっと…自分でも驚いてるかも」


「…そうか。でもお前にはこれぐらいのポテンシャルがあるってことだ。これで気を抜かずに、明日からも気を引き締めていくぞ」


「…わかってるし」


嬉しそうに鼻をひくひくさせる有栖川に俺は思わず苦笑してしまうのだった。

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