第20話


『なんてきたの?』


無表情の有栖川が言った。


じっと瞬きもせずに俺のことを真っ直ぐに見てくる。


『わ、わからない…今から確認する』


『…』


『いや、す、すまん…後でにするよ。後で確認する』


謎の圧を感じて俺はそういった。


だが画面の中の有栖川は表情を変えずに言った。


『別に今確認すれば?そんなに時間かからないでしょ』


『いや、でも…』


『今確認すればいいじゃん。急用だったらどうするの?』


『…わ、わかった。すぐに確認する』


俺は急いで星宮からのメッセージを確認する。



“もしかしてなんだけどさ、加賀美くんって有栖川さんのこと好きなの?”


『ほぁ!?』


星宮からのメッセージを読んで、俺は思わず奇妙な声をあげてしまった。


『何、どうしたわけ?』


俺の驚きように有栖川が怪しむような表情になる。


『なんて書いてあったの?』


『いや、そ、その…だな…』


『何?なんなの』


『た、大したことじゃない…テスト範囲でわからないところがあるから教えてくれっていう…そう言う感じだ』


『全然そう言う感じには見えないんだけど』


『…』


『何隠してんの?めちゃくちゃキョドッてるし。なんかきも』


『い、いや…隠してるというか…』


『ま、別にあんたと星宮さんとの会話内容に興味なんてないけど…さっさと返信したら?』


そう言ったっきり有栖川は勉強に戻ってしまった。


俺は深く追及されなかったことにほっと胸を撫で下ろしつつ、星宮に返信をする。


“どうしていきなりそうなる?”


“だって有栖川さんと加賀美くんが出会ったのってほんの最近なんでしょ?なのに有栖川さんが留年しないように面倒を見てあげるって…もしかしてそう言うことなのかなって”


“話が飛躍しすぎだ。別に俺は下心があって有栖川の勉強の面倒を見ているわけじゃない”


“じゃあ、何?”


「…」


俺はしばし考える。


本当になぜ俺は有栖川にここまで深入りしているのか自分でもわからない。


ただこれだけは言える。


”俺は有栖川に留年したり、この学校を辞めてほしくないんだよ“


既読がついた。


だが星宮からの返信は返ってこない。


俺はまるで自分の中で蟠っていたものを吐き出すみたいに、思いを吐露する。


”有栖川といろいろ話してみて、噂されてるほど悪いやつじゃないってわかった。勉強を教えてみたら、飲み込みもはやい。誰かが導いてやれば、絶対に有栖川なら留年を回避できるし、上位を狙うことも難しくないと思った。だから有栖川の勉強を見てるんだ“



今度も既読はすぐについた。


だが返信はやはりこない。


”なんというか、上手く言えないけど、有栖川が学校を辞めたりするのは勿体無いとそう思ったんだ。ポテンシャルはあるのに、ちょっとのかけ違いで能力を発揮できない人間がいたら側から見てたらすごくもどかしく感じるだろ?”


“その感覚はよくわからないけど”


ようやく星宮から返信が返ってきた。


俺が送った文章はちゃんと読んでいたらしい。


“でも、加賀美くんの言いたいことは理解できたかな。確かに…クラスメイトだった誰かが来年には退学でいなくなっちゃうのは寂しいかもね“


”まぁその感情に近いかもしれない“


”ふぅん。そっか“


よくわからんが星宮は納得してくれたようだった。


俺はとんでもない誤解を免れて、ほっと胸を撫で下ろす。



”優しいんだね、加賀美くん“


”いや、ただのお節介だ。自己満足に近い“


”そうなのかもね。でも実際、それで多分有栖川さんは助けられるんだろうし。人のためになってるんじゃない?“


”そうなることを祈る“


”そういうことなら、頑張って。応援してる“


”おう“


”何か私に手伝えることあったら言ってね。出来ることは少ないけど、社会とかだったら手伝えるわけだし“


”もしかしたら力を借りるかもしれない。星宮のよく纏まってるノートが必要になるかもしれん“


”うんわかった。明日、六道くんからノートは返してもらうよ。借りたかったらいつでも言ってね“


”恩にきる。それじゃあな“


”うん、ばいばい加賀美くん。おやすみ“


星宮からのメッセージが途絶えた。


俺はしばらく画面をぼんやりと見つめてしまう。


『終わったの?』


有栖川の声で、俺は我に返った。


有栖川は手元に視線を落としながら、どうでもいいような口調で聞いてくる。


『なんだったの?勉強を教えてる感じじゃなかったけど』


『…そうだな。まぁ、どうでもいいことだよ』


『あっそ』


『すまん、中断させちまって。こっからは俺も集中するから』


『別に。好きにしたら。私は勉強しとくから』


有栖川はそれきり一言も喋らず、勉強に集中し出した。


俺もスマホを元の位置に置いて、自分の勉強に取り掛かった。




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