第17話


「んあ…?」


明け方。


窓から入る朝日で、俺は目を覚ました。


顔を上げると画面の暗くなったスマホが目に入った。


どうやら昨日はあのまま有栖川との通話中に寝落ちしてしまったらしい。


体の節々の痛みに顔を顰めながら、俺は有栖川とのやりとりを確認する。


ビデオ通話自体は5時間以上前に切れており、有栖川からは一言「おやすみ」というメッセージが届いていた。


どうやら向こうも俺が寝落ちしたことを察して勝手にビデオ通話を終えたらしい。


「ん…?」


顔でも洗おうと立ち上がった俺は、いくつかの新規メッセージが届いていることに気がついた。


六道が作った勉強会のグループの方が未読メッセージ100件以上とかなり動いており、星宮からもメッセージが届いていた。


俺は星宮からのメッセージを確認してみる。



“加賀美くん。グループチャットの方見てる?なんかまた今日の放課後にみんなで勉強会するみたいな感じになってるけど加賀美くんは参加する?”



どうやらグループチャットの方ではこの間のメンバーでまた勉強会を開くという話になっているらしい。


星宮からのメッセージは昨日の夜に届いたものだ。


おそらく俺が寝落ちした後に送信されたのだろう。



“悪い星宮。俺は今日は参加できそうにない”



俺は星宮に対してそんな返信を返した。



”え、なんで?“


早朝だというのにすぐに既読がつき、星宮から返信が返ってきた。


“ちょっとすることがある”


“あ、もしかして例の使命?”


「…っ」


“まぁ、そんなところだ”


“そっかぁ。じゃあ仕方ないね”


“すまん。何か聞かれたら俺は用事があって参加できないって六道たちに言っておいてくれ“


“うーん、それはどうだろ。加賀美くんが参加しないなら私も今日はやめとこうかなって思ってる“


”なんでだ?俺に気を使わなくてもいいぞ“


”気を使うとかそういうんじゃなくてね?“


”星宮数学が苦手なんだろ?勉強会のメンバーの中に数学が得意な奴もいるだろうし、参加して疑問点を解消しておいた方がいいんじゃないのか?“


”(星宮の呆れ顔のスタンプ)“


”(首を傾げるスタンプ)”


”(星宮がぷくーと頬を膨らませて怒っているスタンプ)“


”(でかいはてなマークのスタンプ)“


「なんなんだよ…」


唐突に始まった星宮とのスタンプ合戦に俺は首を傾げる。


星宮の意図はよくわからないが、何かに対して若干怒っているのは伝わる。


一体俺の何が星宮を不機嫌にさせたのかはわからないが、こういう時はとりあえず謝って

おいた方が被害を拡大せずに済む。


そう判断した俺はごめんなさいの文字のスタンプを送信した。


すると星宮から「んべっ」と舌を出しているスタンプが送られてきた。


どうやら星宮はふざけているだけだったらしい。


はぁとため息を吐いた俺は、スマホをポケットにしまい顔を洗うために洗面所へと向かった。





朝の教室。


俺が自分の席に座っていると、御子柴が話しかけてきた。


「おい、加賀美」


「なんだよ」


「なんだよじゃねぇよ。わかんだろ。昨日のあれは一体どういうことだ」


「あれってなんだよ」


「惚けるな。お前いつの間に有栖川と仲良くなったんだ」


「仲良くなってねぇよ」


「嘘つけ。俺は誤魔化されんぞ。なんで今まで誰とも絡まなかった有栖川とお前が放課後二人で一緒に勉強なんてことになるんだ。うらやま…じゃなくて絶対に怪しいぞ」


「おい本音漏れてるぞ」


「いったいどんな手を使って有栖川に取り入ったんだよ」


「取り入ったってなんだ。別に俺は下心があって有栖川に勉強を教えたわけじゃない。いろいろ事情があるんだよ」


「くそっ、なんだよそれ…お前ばっかりいい思いしやがって…!星宮と勉強したり有栖川と勉強したり…!ずるすぎるぞ!」


「知らねーよ。俺だってしたくてしてるわけじゃない。巻き込まれたんだよ」


「俺は自分から行かなくとも勝手に女の方から寄ってくるってか!」


「そうはいってねぇよ。なんでそんな解釈になるんだ」


「おはよ。加賀美」


御子柴とバカみたいなやりとりをしていると、不意に背後から名前を呼ばれた。


たった今登校してきたらしい有栖川が俺に右手を挙げている。


「おはよう」


俺が軽く会釈を返すと、有栖川が近くに寄ってきた。


「昨日は遅くまでありがと。一応、お礼言っとく。あんたのおかげで一人でするより集中できたし」


「…そうか。途中で寝落ちして悪かったな」


「別にいい。てか…ぷふっ」


有栖川が思い出したかのように笑い出した。


普段仏頂面の有栖川が、楽しげに笑うという珍事に、クラスメイトたちが物珍しそうな視線を向けている。


そんな中有栖川はお腹に手を当てて心底おかしいというように笑いながら言った。


「めっちゃ寝息聞こえてきてた。まじうける」


「…おいやめてくれ」


恥ずかしさに俺は赤面する。


有栖川はおかしそうに笑いながら自分の席へ歩いて行った。


周囲の生徒たちはそんな有栖川を呆気に取られた表情で見ていた。


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