第13話


放課後の教室にて、有栖川との勉強会が始まった。


クラスメイトたちが珍しいものを見る目で横を通り過ぎていく中、俺たちは机をくっつけて教科書を広げる。


「それで?私は何をすればいいわけ?」


全然勉強を教えてもらう側の態度ではない有栖川。


頬杖をついて試すように俺のことを見てくる。


「そうだな…まずどの科目がわからないんだ?」


俺は最初に有栖川の苦手科目を聞いておくことにした。


今の有栖川に必要なのは、得意科目をさらに伸ばして総合点数や順位を上げることではなく、苦手科目を少しでも勉強して点数を良化させることだ。


落第しそうな科目を集中的に勉強すれば、赤点を回避して、留年する可能性を減らせるかもしれない。


「どの科目って…うーん…」


有栖川はしばし悩んだ後に言った。


「大体全部」


「せ、全部…?」


まさかの答えが帰ってきて俺は呆然とする。


「一つでも得意な科目ないのか?」


「あるわけないでしょ」


この世の当然の摂理を解くように、有栖川が言った。


「全部か…じゃあ、逆に一番苦手な科目はなんなんだ…?」


「そんなの知らない。考えたこともない。全部ちんぷんかんぷんだし」


「それもわからないのか」


これではまず何から勉強をしていいのかわからない。


俺はとりあえず有栖川の現時点での学力を把握するために、直近の定期テストや豆テストの各科目の点数を聞いておくことにした。


「定期の点数?覚えてないけど、この間のやつは全部赤点だったよ」


するとあっさりとそんな答えが帰ってきた。


「ぜ、全部赤点…?それまじか…?」


「うん。まじまじ」


恥ずかしげもなく有栖川は肯定した。


「数学の点数とか7点だったし」


「あれお前かよ」


うちの学校は定期テストのたびに、各科目の最高点と最低点が公表されるのだが、この間の定期テストでは数学の最低点が7点となっていて話題を呼んでいた。


まさかこいつだったとは。


「7点ってどうやって取るんだよ」


「は?何喧嘩売ってんの?」


睨みを聞かせる有栖川。


はぁ、と俺はため息をついて、とりあえず数学から有栖川に教えておくことにした。


「数学から勉強しよう。流石に7点は酷い」


「えー、数学嫌いなんだけど」


有栖川がブーたれる。


「最終的な成績は前期と後期の点数の平均で出される。赤点は25点以下だからお前は次のテストで最低でも44点以上を取らないといけない。そうじゃないと留年だぞ。わかってんのか?」


「う…確かに」


「わかったら数学からやるぞ」


「はぁーい」


流石に留年するのは嫌なのか、有栖川は渋々と言ったように俺の指示に従った。


俺は有栖川に数学のテスト範囲の部分を、なるべくわかりやすく教える。


「とりあえず簡単な問題からざっと解いてしまおう。多分今から応用問題まで教えても間に合わないと思うから。本番は難しい問題は捨てて解ける問題を解いて点数を拾っていく感じて行ったほうがいい」


「私あれ大っ嫌い。なんか数学なのに文章書くやつ」


「証明問題な。あれ多分前期7点ちゃんには絶対無理だから教えるつもりはない。安心しろ」


「変なあだ名で呼ぶな。あとバカにすんな。これでも私、小さい頃はやればできる子って言われてたから」


「やればできる子なんてのはやってないのと変わらねぇよ。いいからまずこの問題解いてみろ」


「はぁーい」


有栖川がようやく問題と向かい始める。


俺はまず有栖川に考えさせて、行き詰まると少しずつヒントを与え、正解へと導いていく。


思ったほど要領の悪くない有栖川は、俺が予想していたよりも速いスピードで問題を解いていく。


「できた」


「あってる…お前以外といけるじゃん」


あっさりと正解を導き出した有栖川に俺は驚いた。


有栖川が得意そうな表情になる。


「ね?やればできるっしょ?」


「あんまり調子に乗るな。これ一番簡単なやつな。それじゃあ、次、これといてみろ」


「うざ。ちょっとは褒めてくれてもいいじゃん」


文句を言いながらも次の問題に取り掛かる有栖川。


俺はため息を吐いて、しかめ面で問題文を読んでいる有栖川を見守るのだった。



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