第12話
「おい、お前どこにいたんだよ」
昼休み終了間際に教室に戻ると、御子柴が俺にジトっとした目を向けてきた。
「お前が用事とやらを済ませるのをずっと待ってたのによ」
「なんのためだ」
「決まってんだろ。昨日の勉強会についてもっと色々問いただすためだ」
そうだろうと思ったから、半分は屋上、そして半分はトイレの個室で時間を潰してきたんだ、と俺は心の中で呟いた。
「…今朝話したろ。あれ以上特に話すことはない」
「なぁ勉強会ってまたやるつもりなのか?もしやるなら俺も誘って欲しいんだが」
「さあな。直接六道にでも頼んでみたらどうだ?俺は知らん」
「おい、親友だろ?俺がこっそりとメンバーに紛れ込めるように手を回してくれてもいいんじゃないか?」
「嫌だね。余計なことをして六道に目をつけられたくないし」
「この小心者め」
そんな会話をしているとにわかに教室の入り
口がざわつき始めた。
見れば、一人の女子生徒が教室の入り口に立っていた。
「…」
有栖川綾乃は気だるげな仕草で教室全体を見渡した後、「はぁ」とため息を一つ落としてそれから自分の席へと向かって歩み始めた。
途中、有栖川と目が合う。
視線の厳しさが増す。
屋上で俺に言われたことを根に持っているのだろうか。
俺は逃げるように視線を逸らした。
「有栖川…午前の授業全部サボってようやくお出ましか」
御子柴が後ろからそんなことを言ってくる。
「今までどこで何やってたんだか。ま、おおかた不良仲間と遊んでたとかだろうがな」
「違うんじゃないか」
「ん?」
御子柴の言葉を俺は否定する。
「多分あいつ、みんなが思ってるほど不良でも性格がきついわけでもないと思うぞ」
「お、なんだよ。お前、有栖川に気でもあるのか?」
「そうじゃねぇよ。ただ…なんとなく悪いやつではないんじゃないかって」
「随分有栖川を庇うんだな。ま、可愛いのはわかるけどよ」
「だからちげーよ」
そんな言い合いを御子柴としているうちに、
有栖川は俺の斜め前の席に腰を下ろし、程なくして午後一発目の授業の担当教師が教室にやってきた。
授業が始まり、皆が机にノートと教科書を広げる。
チラリと有栖川に視線を移すと、有栖川は珍しく真面目に教科書を開き、渋そうな表情をしていた。
放課後。
俺が帰り支度をしていると、有栖川が突然ぶっきらぼうに話しかけてきた。
「ちょっと、加賀美」
「ん?なんだ?」
「うお!?」
後ろから聞こえてきた御子柴の驚くような声は、一旦無視した。
「今日あんたこの後暇?」
有栖川が俺を睨みつけるようにみながらそう聞いてくる。
「特に予定はないが」
俺がそう答えると、有栖川は一瞬、自身のマニキュアの塗られた爪を確認したりして、迷うような仕草を見せた後、こういった。
「じゃ、勉強教えろ」
「は?」
「うえっ!?」
またしても後ろから御子柴の驚くような声が聞こえてきたが、やはり無視した。
「勉強を教える?俺がお前にか?」
「そう」
「なんで?」
「は?あんた私に説教したでしょ。このまま
だと留年だとかなんとか。責任とってよ」
「せ、責任…?」
「はぁ…」
有栖川が苛立ったように頭をガシガシとかいた。
「だからぁ…あんた私にあんだけ偉そうにお説教したんだから、実際に行動して見せろって言ってんの」
「はぁ」
「私このままだと出席日数足りても、成績で普通に留年なわけ。だから、そうならないように私に勉強を教えろ」
「…いや、でも俺も自分の勉強が」
「拒否権ないから」
いつの間にか、有栖川は俺の右腕を掴んでいた。
ぎゅっと力が込められ、絶対に逃さないという強い意志が伝わってくる。
「わ、わかった…わかったよ」
俺は渋々頷いて、背負っていた鞄を下ろした。
有栖川がふんと鼻から息を吐く。
「え、えっと…加賀美…?これはどうい
う…」
御子柴が俺と有栖川を見比べて呆気に取られていた。
有栖川がそんな御子柴に睨みを聞かせる。
「あんた誰」
「え…」
「私と加賀美、今から勉強するから。あんた邪魔なんだけど」
「…っ!?」
「どっか言ってくんない?」
「はいぃ!」
御子柴はガクガクと頷いて、そそくさと帰り支度に取り掛かり、逃げるようにして教室を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます