第6話
定期テスト前の時期の図書室とは大抵混んでいるものだが、今日は俺たちのクラスのホームルームが比較的早く終わったこともあり、六道率いる一行全員が座れる席は確保することができそうだった。
まずは六道たちが座るのを待って、適当に邪魔にならない端っこを選ぼう。
図書館に入った後の俺は、そんな考えのもと、六道たちの動きを見ていた。
「「「…」」」
だが、六道とその取り巻きたちは空いている席を目の前にしてなかなか動き出さない。
と言うのも六道自信がどこに座るべきか決めかねているからだ。
一体何を迷っているのかと疑問に思った俺だが、すぐにその意味がわかった。
どうやら六道は星宮がどの席に座るのかを見ているようだった。
星宮が席についたタイミングで自然な感じで、自分がその隣かあるいは向かいに陣取るつもりなのだろう。
せっかく勉強会に誘ったのに、星宮と離れた席では意味がない。
となれば必然、星宮が座らなければ、この場は動かないことになる。
俺だけではなく、六道の取り巻きたちも大体俺と同じような思考回路を辿ったのか、自然皆の視線が星宮に集まり出す。
星宮は空いている席に視線を巡らせた後、俺
の方を見てきた。
「加賀美くんはどこに座るの?」
「え…俺?」
思わず自分を指差してしまう。
星宮は頷いてからさらりと言った。
「加賀美くんの隣に座るよ私」
その星宮の一言で一瞬場が凍りついたような気がした。
六道が苦々しい視線を俺に向けてくる。
だがそんなことに微塵も気づいていない星宮はニコニコしながら続ける。
「普段お仕事であんまり勉強できてないから、教えて欲しいな。加賀美くん、確か勉強得意だったよね」
「…ま、まぁ」
部活に所属していない俺は、勉強ぐらいしかやることがないので、そこそこ得意ではある。
定期テストではいつも総合順位30番以内ぐらいにはつけている。
一学年全体で200名を超える生徒がいることを考えると勉強が得意と言っていい範疇ではあるだろう。
「早く座っちゃってよ。ぐずぐずしていると、他のクラスの子たちがきちゃうかもしれないし」
「わ、わかった…」
他の奴らの動きを見て端っこに座ろうと思っていた俺が、まさか一番最初に席につかなくてはならない流れになってしまった。
俺はどうするか迷った後、とりあえず隣の生徒の集団から一つ開いた席に座った。
「それじゃあ俺はここで」
「じゃあ私はここにしようかな」
すると星宮が俺の隣に座り、隣の集団と俺の席の間を埋めてしまう。
それを見た六道がこの上なく渋い表情になった。
見れば星宮の向かいの席は、すでに背もたれに掛けられたジャージによって他の生徒に確保されていた。
これで星宮の隣も向かいの席も埋まってしまった格好になる。
六道が恨みがましい視線を俺に向けてきた。
俺は咄嗟に視線を逸らす。
本当に申し訳ない。
わざとではないのだ。
「…俺はここにするか」
六道が渋々と言った感じで、俺の向かいの席に座った。
「じゃあ私、六道くんの隣に座る〜」
「それじゃあ、俺はその隣」
「俺はこの辺でいいかな」
六道が席に座ったことで、次々に取り巻きた
ちも席についていき、自ずと勉強会が始まった。
まぁちょっとピリつきはしたが、勉強会が始まって仕舞えば、空気など関係ない。
俺は机の上に教科書を広げて早速勉強を始める。
「加賀美くん、何勉強してるの?」
横から星宮が覗き込んできた。
シャンプーか、あるいは香水だろうか。
ふわりといい香りが漂ってきてドキリとしてしまう。
「数学だな」
「数学難しいよね〜。私、最近全然授業についていけてないや」
「そうなのか?星宮って勉強苦手だったっけ」
「あんまり得意ではないかなぁ」
「定期の順位はいつもどれぐらいなんだ?」
「大体真ん中ぐらいかなぁ。数学とか理科とか難しい科目は全然なんだけど、社会とか古文とか、暗記科目でなんとか補ってる感じだよ」
「なるほど…でも、芸能活動しながらそれぐらいやれば十分なんじゃないか?」
「わーい。褒められた。ありがと〜」
にへらと笑う星宮。
俺もつられて笑みを浮かべてしまう。
ごほんごほんと目の前からわざとらしい咳が聞こえてきた。
見れば、前方から六道が思いっきり睨みをきかせてきていた。
俺は慌てて教科書に視線を戻す。
「加賀美くんが数学やるなら私も数学からやろっと。わからないことがあったら聞いてもいい?」
「…別にいいぞ」
「ありがと〜」
「星宮。数学なら俺も得意だぞ」
六道が俺たちの会話に口を挟んでくる。
見れば六道が机の上に広げているのも数学の教科書だった。
「せっかくの勉強会だし色々教え合いたい。何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてくれ」
「ありがとう六道くん。でも隣の加賀美くんに聞いた方が早いから、今は大丈夫かな」
「…そうか」
六道がどんな顔をしているのか、俺は確認する勇気がなかった。
星宮と六道のそんな会話を聞きながら、俺はひたすらノートにペンを走らせるのだった。
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