第5話


唐突な星宮からの誘いに俺は困惑してしまう。


どうして俺が?


疑問符が頭を埋め尽くす。


ちらりと六道の方に視線を移すと、六道の方もかなり驚いているようだった。


「いいでしょ?」


星宮は断られることなんてまるで考えていないかのような笑みで返事を聞いてくる。


「な、なんで俺なんだ?」


俺はようやく絞り出すようにしてそういった。


誘うべき人物ならもっとたくさんいたはずだ。


星宮の友達。


もしくは六道たち一軍メンバーと普段から関わりがある他の生徒。


よりにもよってなんで俺なんかに星宮は声をかけてきたのだろうか。


「んー、なんとなくかな」


「…」


そんな適当な理由か。


俺は断ろうと思った。


俺があの中に混じっても空気を悪くするだけなのは目に見えている。


適当に用事があるとでも言って断った方が無難だろう。


そう思って口を開きかけた時、六道がこちらへと歩いてきた。


「加賀美、であってるよな」


六道が俺を見下ろしながら言ってきた。


一応俺の名前は覚えているらしい。


「勉強会のメンバー、あんな感じだけど大丈夫そうか?」


「…」


六道が自分の背後にいる生徒たちを親指で

指しながら聞いてきた。


「俺ら全然加賀美と話したことないから加賀美のことよくしらないけど、馴染めそうか?」


「えっと…」


「きついなら無理する必要はないぜ」


「…」


断れ。


そんな六道の意志をひしひしと感じた。


六道としてはせっかくの星宮との勉強会の空間に、俺と言う異物が混じることはなるべく避けたいのだろう。


いつも自分の周りにいる取り巻きたちならば、自分の思い通りに動かせる。


だが俺は違う。


だから星宮との勉強会を自分の思い通りに進めるためにイレギュラー要因である俺はあらかじめ排除されておく必要があるのだ。


「そうだな。あんまり、馴染めないかもな」


そして俺だって進んで六道の空間を気まずくしたいなどとは思わない。


勉強は家で一人でしたい派だし、彼らと一緒に勉強をして特に何か学びを得られると言ったこともないだろう。


六道と俺の利害は一致している。


「悪いけど、俺はやめとくよ」


「そうか。残念だ」


全然残念じゃなさそうに六道が行った。


危機はさった。


俺はカバンを背負って帰ろうとする。


「じゃあ、私もいいかな」


「はぁ!?」


六道が焦ったような声を出す。


星宮が六道に向けていった。


「加賀美くんが来ないなら私も別にいいや。ごめんね六道くん。誘ってもらって悪いんだけど、今日は私は帰ろうかなと思う」


「いやいや、ちょっと待ってくれよ星宮」


六道が食い下がる。


「なんでそうなる?さっきオーケーしてくれじゃないか」


「そうだけど…やっぱり参加する気がなくなっちゃったかも」


「なんでだよ」


「誘った加賀美くんに振られちゃったし」


「加賀美と星宮って友達だったのか?」


六道が驚いたように俺と星宮を見比べる。


星宮が笑顔で頷いた。


「そうだよ。私と加賀美くんは友達だよ。中学の頃からの。ね?」


星宮が俺の方を見てきた。


いや、俺たちって友達だったのか?


俺は疑問に思いながらも、曖昧に頷いた。


「わかった。それじゃあ、やっぱり加賀美、参加してくれよ」


さっきとは打って変わって真剣そうに六道が誘ってくる。


俺と言う異物を勉強会の空間に招き入れることになったとしても、星宮が勉強会に参加しないという最悪の事態は絶対に避けたいらしい。


「いいだろ、加賀美?」


六道が圧をかけるように近づいてくる。


俺はクラスの中心人物に真っ向からノーを突きつけることもできず、頷くことしかできなかった。




ゾロゾロと六道率いる生徒たち一行が、図書館へと向かって廊下を歩く。


先頭を歩く六道の周りは、いつもの取り巻きたちの生徒で固められている。


彼らは互いに何かを話し合いながら、少し遅れて後ろを歩いている俺と星宮のことをチラチラと見てくる。


「楽しみだね、加賀美くん」


星宮は俺の隣を歩きながら楽しそうにそんなことを言っている。


「私、勉強会とかしたことなかったからワクワクしてるかも。加賀美くんは勉強会はしたことある?」


「…まぁ何度か」


「そうなんだ。わからないところがあったら教え合おうね」


「…そうだな」


俺をこんな面倒ごとに巻き込んだ張本人に文句の一つでも言いたかったのだが、星宮の楽しそうな顔を見ていたらその気も失せてきた。


仕方ない。


なるべく自己主張をせず、空気になって無難に乗り切ろう。


俺は鼻歌を歌っている星宮の横でそんな決意を固めるのだった。





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