第4話


「連絡事項は以上だ。来週からはテストが始まるからお前ら家に帰ってしっかり勉強しておけよ。それじゃあ日直、号令」


日直の号令と共にホームルームが締め括られ放課後になった。


「今日どこで勉強する?」


「ファミレスでいいんじゃね?」


「図書館の席確保しておいたぞ」


「自習室一緒に行こうぜ」


テスト期間が来週に迫っているということもあり、生徒たちは放課後の勉強会の場所を話し合ったりしている。


「なぁ、加賀美。俺らもどっかで集まって勉強会とかやるか?」


俺が淡々と鞄に荷物を詰めて帰り支度をして

いると、御子柴がそんなことを言ってきた。


「いや、必要ないだろ。俺は一人で勉強したい派だ」


「…マジかよ。連れねぇなぁ」


「大体勉強会ってあんまりテスト対策進まないイメージあるぞ。一人で集中した方が絶対に効率がいいだろ」


「そうかもしれないけどよぉ…」


御子柴がへこたれる。


「俺一人だと遊んじゃうから誰かとの方が捗るんだよなぁ。あとお前にノート写させて欲しいし」


「悪いな御子柴。勉強は一人でするものだっていうのが俺の持論だからな。ノートは写メ送ってやるよ」


「お、まじ?サンキュー。それじゃ、今日のところは俺も家で勉強するか」


御子柴とそんな会話をしながら俺は帰り支度を終えて、教室を出ようとする。


そのタイミングで、教室のど真ん中あたりからよく響く声が聞こえてきた。


「なぁ、今日図書館でみんなで集まって勉強しないか?」


「いいねそれ!」


「やるやる!」


「私もやりたい!」


「俺も俺も!」


明るく、そして爽やかさもある声にすぐに何人かの生徒が追従する。


俺はチラリと声の主に視線を移す。


たくさんの生徒たちの中心にいたのは、六道大洋だった。


六道はいわゆるクラスの一軍メンバーのリーダー格だ。


背が高く、顔立ちも整っていて、運動神経も抜群。


2年でありながらサッカー部の主将を務めていて、女子人気が高い。


いつもたくさんの友人たちに囲まれて、クラスの中心で大声で喋っている。


六道が一度意見を発すれば、クラスの大半がそれに追従し、内心どう思っていようが逆らうことは許されない。


現に今も六道の一声で、たくさんの生徒が六道の元に集い、大人数で図書館で勉強会を開く流れを作ってしまった。


「みんなでやったほうが色々対策とかも話し合えて効率的だからな。あとはそうだな…」


自分の元に集まってきたクラスメイトたちに笑顔を見せた六道は、まだ誰かを誘うつもりなのか、教室をぐるりと見渡した。


何人かの女子生徒が六道に誘って欲しそうな視線を向ける。


だが六道の視線はそんな女子生徒たちを通り過ぎて、ある一人の人物のもとに止まった。


「なぁ、星宮。よかったら今日、俺たちと図書館で勉強しないか?」


「え…」


突然名前を呼ばれた星宮が六道の方を見る。


六道が星宮に声をかけた瞬間、女子たちが少しだけ嫌そうな顔をした。


御子柴が俺の近くに寄ってきてボソッと呟いた。


「なるほど。星宮が本命か」


「…」


まぁ御子柴の言わんとすることはわかる。


六道が星宮のことを気にかけているという噂はそれとなくクラスの中に流れていた。


あまり情報に疎くない俺でも知っているのだから、普段六道の周りにいる連中…特に女子たちの間には知れ渡っているのだろう。


今のは見るのもが見れば、六道が星宮を勉強会に誘うために周りを利用したというように映ったかもしれない。


それは六道目当てで勉強会に参加する女子からしたらあまり気分のいいものではないだろう。


室内に少し緊張した空気が漂い出した。


俺と御子柴が無言で成り行きを見守る中、全く状況がわかっていない星宮が首を傾げた。


「なんで私?」


「みんなで勉強したほうが効率がいいと思うんだ。星宮勉強得意な方だろ?色々俺たちに教えて欲しいと思ってる。迷惑じゃなければ参加してくれないか?」


「うーん…」


星宮が渋そうな顔をする。


「でも私…ちょっと色々あるから…」


「色々って?」


「そ、その、ほら…お仕事とか…」


「でも星宮、昨日SNSでテストが近いからしばらくお仕事はお休みさせてもらうことになりましたって呟いてなかったか?」


「ぎくっ」


星宮がしまったということになる。


「わお。SNSもしっかり監視してますと」


「おいやめろ、聞こえるぞ」


俺は御子柴を黙らせる。


六道は星宮にさらに畳み掛ける。


「無理にとは言わない。でも星宮、普段忙しくてなかなか話す機会もないだろ?それだとクラスの中で浮くと思うんだ。だからこういう機会に交友を深めて馴染めるようにと思ったんだが、どうだ?」


「えーっと…」


六道のやり方は実に巧妙だった。


あえてクラスの交友関係を持ち出すことで、星宮の逃げ道をなくしていく。


ここでもし星宮が断れば、星宮はクラスに馴染もうとしないやつということになり、浮いてしまうことになるだろう。


それを避けるためには六道の誘いを受けるしかない。


「わ、わかった。じゃあ、参加するね」


星宮は渋々と言ったように最後には六道の誘いを了承した。


六道の周囲の女子たちが一瞬、肩を落としたように見えた。


「よし、決まりだな。それじゃあ早速図書館に行くか。早く行かないと席が埋まっちまうかもしれないからな」


「あ、ちょっと待って」


早速移動を開始しようとした六道を星宮が呼び止める。


「私も一人、誘っていいかな?」


「…?」


「これだけ大人数だから一人や二人増えても別に構わないでしょ?」


「わかった。でも誰を誘うんだ?」


「ちょっと待ってね。いま連れてくるから」


星宮がスタスタと俺の元に歩いてきた。


「というわけで加賀美くん。一緒に勉強会に参加しようよ」


「え…」


笑顔でそんなことを言う星宮に、俺はその場で固まってしまうのだった。

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