第4話

 ただ数日、怠惰に過ごしていただけなのに、事態がこんな風に展開するとは思わなかった。


 回想を終え、僕は再び作業室に戻った。差出人の動機は分からない。しかし今の僕にとっては、目の前の残骸が修復できるかどうかを判断することが最優先の課題だ。


 僕は棺桶に横たわる残骸をじっくりと観察し、チューチューは傍で待機していた。


「記録。サンプルはケモノヒューマノイド、女性型。運用年数はおよそ二十一年と推定。冷却保存液と銀の花が満たされた棺桶に収納され、送られてきたもの。」


 まずはオシログラフに接続されたプローブを取り出し、残骸の後頭部に挿し込んだ。何度か刺激を与えると、オシログラフが反応して数値が跳ね上がった。


「プロセッサーは無傷。現在は休眠状態。再起動の可能性は十分にある。」


 残骸の胸には小さな切り傷があった。僕は残骸の首筋に触れ、そこに残ったくぼみを確認した。粗雑なロープか何かで縛られていた痕跡が残っている。首に残る繊維を剥ぎ取り、手を手首の内側に移した。そこには深い二つの穴があった。


 まるで犬歯が刺さったかのように、手首には並んだ穴があった。


「停止の原因は、首の循環液の流れが滞り、プロセッサーが断線して休眠に入ったこと、さらに刺し傷による循環液の大量放出によるものと推定。」


 僕は眉をひそめた。これは外を徘徊しているドローンが残すような傷ではない。ドローンの装備はほとんどが銃器であり、こんなナイフ傷や締め跡は残らない。嫌な予感を振り払うように、僕は残骸の胸の傷に顔を近づけ、慎重に裂け目を広げて調べた。


「循環ポンプが破損、ペースメーカーが壊れ、循環液は不足している……」


 僕は指で計算をした。


「ギリギリだが、修復コストは全体評価額の30%以下。」


 僕の言葉を聞くと、傍にいたチューチューは明らかにほっとした表情を浮かべた。


「電気ショック装置と輸液チューブ、あとはゲル、縫合糸と補強材だ。再起動前に、ふとももの刺し傷を塞いでから循環管を補修する必要がある。ああ、それと新しいペースメーカーを頼む。」


「かしこまりました。」


 チューチューから差し出された二本の針を受け取り、僕はその先端をレオナの肋骨の下に差し込んだ。そしてもう一本のチューブを受け取り、残骸の鎖骨の下に挿入した。


 僕はレーザーカッターを手に取り、破損したペースメーカーを切除し、新しい部品を溶接した。そして、断裂した循環管を補修し、切り開いた皮膚を縫合していった。


「チューチュー、注いでくれ。」


 赤い循環液が再び残骸の中に注ぎ込まれた。色あせていた皮膚や唇が再び紅潮し、色を取り戻した。


「電気を流すぞ。あ、まずは拘束帯をかけて。」


 チューチューが残骸の手足を鉄鎖で固定するのを確認してから、僕はスイッチをひねった。


 バチンッ。


 電気が流れた瞬間、残骸は激しく震えた。ビリビリという音と共に、胸から火花が飛び散り、再び静寂が戻った。


「ふむ。」


 僕は残骸の胸部を確認した。今しがた取り付けたばかりのペースメーカーが既に焼き切れていた。確認すると、どうやら回路の一部が劣化しており、再起動に耐えられなかったようだ。


 僕は自分の額を軽く叩いた。こんな基本的なことを見落とすなんて。忘れていたが、僕の工房で使っている部品はほとんどが寄せ集めのガラクタだ。新品でも、品質管理が行き届いていない部品が混ざっていることも珍しくない。今回はそれが裏目に出たというわけだ。


「チューチュー、もう一つペースメーカーを取ってくれ。もっと新しいものを。」


「失礼ながら、ビージェー様。倉庫にあったペースメーカーは今ので最後でした。」


「……そうか。」


 材料がなければ修理もできない。僕は仕方なく工具を置いて作業室を後にした。


 ため息をつきながら、僕は生活エリアのリクライニングチェアに体を沈めた。前後に揺れながら、思わず足を小刻みに震わせる。


 チューチューは灰衣の者たちが持ってきた酒をカウンターの棚に並べてから、振り返って苦笑した。


「そんなに焦っても仕方ありませんよ、ビージェー様。部品がなければ修理はできません。冒険者ギルドに依頼を出して、魔機から現成の部品を手に入れるか、あるいはご自分で作るにしても時間がかかります。」


「分かっているさ。」


 自分の声が少し低くこもったのを感じた。


「依頼を出すには、私が数日間ここを離れて、メトロに乗ってアライドヴァの冒険者ギルドに行かないといけません。ペースメーカーを入手するには、最低でも一ヶ月はかかるでしょう。」


「そんなにかかるのか。」


「はい。ペースメーカーを搭載している魔機を見つけなければならないので、簡単ではありません。ビージェー様が急いでご自分で作るとしても、今のところ材料が足りません。」


 チューチューは目を細めた。


「そもそも、ビージェー様が気まぐれに作ったあの変な実験体がなければ、材料は年末まで十分に持つはずだったんですよ。」


「……ぐっ。」


 僕は言葉に詰まり、チューチューはため息をついて一杯の水を差し出してきた。


「もしどうしても落ち着かないなら、一緒にアライドヴァの辺境に行ってみるのはどうでしょうか?レオナさんの拠点もそこにありますし、メトロに乗れば一週間以内には到着しますよ。アライドヴァには私も少し滞在していましたから、知り合いに材料の情報を聞けるかもしれません。」


「ふむ。獣の国か。」


 僕は水を一口飲んだ。冷たくて、レモンの風味がかすかに広がる。


「そうです。メトロは冒険者ギルドと灰衣衆が共同で運営しているので、今一番豪華な交通手段ですよ。ビージェー様の名義を使えば、灰衣衆に頼んで、良い車両を予約できるはずです。」


 チューチューは両手を組み、目を輝かせた。


「私、ずっとビージェー様と長距離旅行がしたかったんです。きっと面白い旅になると思いますよ!」


「もし部品が早く手に入るなら、遠出するのも悪くない提案だ。」


「それなら!」


 僕は空になったコップを置いた。


「ただ、今はもうレオナを急いで修復したいという気持ちはなくなった。」


 チューチューの肩がしょんぼりと落ち、期待に満ちていた表情も崩れた。


「今は部品が足りないのなら、急ぐ必要はない。」


 僕は「よっこらしょ」と声を上げながら立ち上がり、あくびをした。


「せっかく溜まっていた作業を片付けたんだ。よく考えてみると、彼女をそんなに急いで修復する必要はなさそうだな。もう一度残骸を確認したら、棺桶に戻しておこう。あの棺桶には保存機能がちゃんとあるしな。」


「……そうですね。急がないのであれば、次回レイジャクたちが来たときに依頼を出すようにします。先に近くの遺跡を探索してみます。ひょっとしたら、適した材料が見つかるかもしれません。」


 チューチューのため息を聞きながら、僕は思わず微笑んだ。


「補償にはならないけど、次の遺跡探索には僕も一緒に行こうか。君と散歩するのも久しぶりだし、ちょっと体を動かすのも悪くない。」


「え?本当ですか?」


「もちろんさ。必要な準備は君に任せるよ。僕の装備も忘れずにね。」


 チューチューは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにうなずいて、満面の笑みを見せた。

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