第8話

「え〜! あっちゃんがお弁当持ってきてる!」

「声でか! ウチがお弁当なのそんなに珍しい?」

 授業が終わって昼休憩の時間になった。

 いつもなら教室をすぐに出るけど今回は違う。

「珍しいよ。だってコンビニの菓子パンか食堂だったじゃん」

 そう、今日のお昼は珍しく、と言うか初めて教室でお昼ご飯を食べる。

 なぜなら、桜狐ちゃんが作ってくれたお弁当があるから。

「あ、そうだったね〜」

「ていうかなんでお弁当? 引っ越したから?」

「うん。ちょっとね〜」

 薄いピンク色の包みを開くと楕円のお弁当箱があった。ウチにとって初めてのお弁当。どんなご飯が入っているのかワクワクしながら蓋を開けた。そこには三色の綺麗なご飯があって、端っこに漬物があった。

「三色丼じゃーん! 美味しそうだね」

「うん。ウチ、お弁当始めてたから感動してる……」

 ピンク、黄色、茶色の三色のおかずが乗っててとっても綺麗だった。

 夜ご飯の時も朝ご飯の時もそうだったけど、桜狐ちゃんは料理が上手だ。

 母親も料理は上手だったけどね。でも、母親の料理よりも喜んじゃう。あったかいのと冷たいのじゃ、だいぶ違うもんね。

「意外。中学は給食だったの?」

「そうだよー」

「地域によって違うんだね。記念位写真撮ってあげようか?」

「まじ? お願い!」

「あっちゃん、めっちゃ嬉しそう」

 食堂では先生と一緒に食べることが多かったけど、食堂の時とは違って、クラスの子達と食べるお弁当は新鮮だった。

 楽しい昼の時間が終わって午後の授業が始まる。

 眠い頭が落ちないように腕で支えては、教科書を開いては眠い顔を誤魔化した。

 午後の授業は何故こうも眠くなるんだろう。今寝たら絶対気持ちがいいのに、寝ちゃいけないって、なかなかの苦行くぎょうだよね。

 そして授業が終わると自然と目が覚める。帰りのHRを終えたウチは教室を出る。今日は部活が無い日だ。ウチの学校は強制的きょうせいてきに部活に入部させられるので、比較的ひかくてき楽ちんかつ居心地いごこちがいい『オカルト研究部』にいる。

 ウチが幽霊や妖怪が見えると言えば、部長は疑うことなく歓迎してくれた。

 むしろ目を輝かせては大きな期待を寄せられちゃった。

 でも正直なところ幽霊部員が多い。理由は『部活をサボりたい』と思っている人間が大勢おおぜいるからだ。

 実際、ウチの部活は『サボりたい人向け』なんて噂が立つほどだから仕方がない。

 ウチも噂を聞いて入部したからその気持ちも分からなくは無い。

 学校終わったらすぐに遊びたいしね。

 そもそもこの強制入部の校則をどうにかして欲しいくらい。

「なんの騒ぎ? 何これ?」

 校門の近くまで行くと何やら人が集まっていた。横に移動したり、ジャンプしてみるけど姿は見えない。というか、背が大きやつのせいで全く分からない。

「帰れないんだけど〜?」

「御縁せんぱい」

 そう言っておーちゃんが突然人混みの中からポンっと生まれるように出てきた。

 驚いて思わずでかい声が出て尻餅しりもちをついた。当の本人はぼんやり顔のままで、一切表情がわからない。

「うるさいっすね」

「幽霊よりも心臓に悪い!」

 起き上がってスカートのゴミを払ったら、出辛いでづら様子のおーちゃんの腕を引っ張って出してあげた。スッキリしたようで、腕を上げて体を捻ってはストレッチを軽く始めていた。満足するとウチの方向を見ては話始める。

「校門の前に道路ありますよね? ”とんでもない美人な子がいる”ってなって集まって騒いでるんですよ」

「へぇー! モデルさん?」

「見たほうがはやいっす」

「人混みで見えないから聞いてるの」

「あー……そうっすか。じゃあ肩車でいいっすか?」

「え?」

 おーちゃんはそう言うと、荷物を置いてはウチの足の間に頭を通して中腰の状態になった。おーちゃんの肩の部分にウチの太腿が軽く乗っていて、足は既に爪先立ちの状態。

「ま、まってまって!」

「髪掴んで大丈夫っすよ。じゃあ、立ち上がるっすね〜」

「ええ?!」

 申し訳なさを感じながらも髪を掴んで何とかバランスを取る。足を曲げると、おーちゃんの腕と脇で硬く固定された。

「見えますー?」

 高くなったウチの目には集まってる人達のつむじが丸見えで”とんでもない美人な子”の正体は一瞬にして分かった。ウチはその人物が知っている人だと理解すると、思わずでかい声で驚いてしまった。慌てて口を塞ぐけど、既に遅くて視線の先はウチに変わっていた。



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