第7話

 神社を抜けると肌寒い秋の空気を感じる。お見送りに対してお礼を言おうとすると、桜狐ちゃんは不思議な顔をした。校門前まで付いてくるらしい。

 ちょっと恥ずかしい。

「外は秋の季節なのですね」

「そういえば、神社はずっと春の季節だよね。どう言う仕組み?」

「わたくしの術の影響ですね。おそらく生まれた季節も関係するかと」

「春生まれなんだ。ウチは秋に生まれたよ。名前にも入ってるし」

 婚約者と言われたけど、実感が湧かない。人間じゃない妖怪だし、女の子じゃないと言ってるけど見た目はまんま女の子。

「そういえば、男の子だって言っていたけどウチのこと気遣って姿変えなくてもいいんだよ?」

「そのことに関しては申し訳ございません。ですが、姿はこのままでいさせてください。いずれ、その時が来ましたらわたくしの本当のお姿をお見せしますね」

「あ、ううん。難しい事情があるならいいよ」

「さほど複雑なものでは無いのです……何と言いましょうか。あ、そうでした!」

 ぱんっと手を叩いては、巫女服の袖から何かを取り出した桜狐ちゃん。

「こちらをお渡しするのを忘れていました」

 ウチの手にそう言って乗っけたのは、桜色のお守りだった。

「お守り?」

「こちらをつけていれば、厄介なモノ達からの接触は避けられます。先程さきほどから、下を向いて歩いたり、神社に入ったときは周りを気にしておられましたから」

 ウチの事、結構見てくれてたんだ。そう思ったら凄く嬉しくなった。両親はあんな感じだから、そう言う心配はしてくれない。

「というか、ウチが見えてるのよくわかったね? 言ってないけど……」

「わずかに感じるのです。秋楽様からの霊力が。わたくし達の様な存在は秋楽様のような『見える素質』がなければ、認知どころか存在すら気づきませんから」

「そうなんだ……」

 話に夢中になっていると気が付けば学校の前にいた。

 桜狐ちゃんにはお礼を言って校門を通過する。少し歩いて後ろを振り向くと桜狐ちゃんの姿がまだあり、控えめに手を振ってくれた。

「おはよーございまーす。御縁せんぱい」

「あ、おーちゃん。おはよ」

「珍しいっすね、いつもは教室にいるのに」

「事情があって別のとこに住んでいるんだよね。慣れない道を通って来たからさ」

 後輩のおーちゃんに挨拶した後、もう一度だけ後ろを振り向いた。

 でも桜狐ちゃんの姿はもう無かった。

 いつもは静かで朝練をしている運動部を通り過ぎて、職員室に行って教室の鍵を貰って静かな教室に入るけど今は全く違う。

「お、御縁が来た。珍しいな〜」

「休んだのかと思ったよー」

「ごめんねぇ、今日はちょっといつもと違う所から来たからさ」

「え、なに? 引っ越したの?」

「うん、だいたいそんな感じかな」

 親に追い出されて、妖怪の婚約者と一緒にいます。

 なんて口が裂けても言えないし、今の時代で幽霊とか溶解を信じる人なんて絶対いないし、馬鹿にされる。秘密にしなければ。

 学校は桜狐ちゃんがいた神社とは違って、幽霊も妖怪も出てくる。いや嘘、妖怪はあんまりで幽霊が出てくる。今はもう慣れてるけど、正直色々と面倒くさい。

「タス、ケテ……タ……ケ、テ」

 ウチの学校は結構古い。

 昭和からある学校で多分その時の幽霊とかが私の視界に入って助けて貰おうと邪魔をしてくる時がある。こういうのは無視が一番。だけど幽霊はずっと訴えてくるから、知りたくも無い事情を結局は知ってしまう。事故で亡くなった人と、人間関係のいざこざで亡くなった人がここにはいっぱい居る。

 落ち着く為に桜狐ちゃんからもらったお守りを握る。ほのかに香る桜の香りが妙に落ち着いた。

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