第1話「お返し」と「お礼」
予想もしてなかった人の姿がそこにあり、私は驚きで身体が固まって動けなくなる。
「小日向さん?大丈夫ですか?」
「はっ!だ、大丈夫ですよ!?ちょっとびっくりしちゃって…」
「何それ、ふふ。私妖怪とかじゃないですよ?」
悪戯っぽく笑い私の顔を覗き込む純玲さん。大学1年生ということは18歳くらい――まだまだ可愛い歳頃なのだと納得する。
「えと、なにかありましたか?」
「実は…隣に越してきたので挨拶に。この前のお礼もしようと思ってたのに遅くなってすみません」
「隣…あっ。大家さんが言ってたのって純玲さんの事だったんですね」
思い返すと今朝、喫茶店に行く前に玄関で会った大家さんに「隣に若い人が来るから仲良くしてあげて」と言われていたのを思い出した。
「これ、大したものじゃないんですけど良かったら…」
そう言うと彼女は持っていた紙袋を手渡してくる。これ、有名なところのお菓子かな?
「ありがとうございます!あっ、お時間あったらまたお茶していきませんか?」
「いいですね。お邪魔します」
彼女を部屋に招き入れ、1ヶ月前みたいに飲み物を用意して純玲さんが持ってきてくれたお菓子を机に並べる。
「ほんとに驚きました。まさかまた会えるなんて」
「すみません。せっかく気を遣って下さったのに…連絡先聞き忘れてたしちょっとゴタゴタしてたもので…」
「あぁ!いやいいんですよ全然!むしろこっちが気を遣わせちゃったかなって…」
そこまで話して、2人とも「ふふっ」と小さな笑みを浮かべる。喫茶店以外で人と話すのなんて何年ぶりかで不思議な気持ちだ。
「あの、なんて言っていいか分からないんですけどこの前助けてもらえて…嬉しくてなにか恩返ししたかったんです」
「恩返しって…でもありがとうございます」
「……んー」
私がお礼を伝えるとなぜか、ムスッとした顔になる純玲さん。私、なにか気に触ること言っちゃったかな?
「その敬語、やめませんか?私の方が歳下だし」
「えぇ!?でもまだ私たち知り合ったばかりだし…」
「私が良いと言うんだから良いんです。そっちの方が私としても助かりますし」
そう言うと純玲さんは目の前のお菓子を食べ始める。最初に会った時は遠慮がちな子だと思っていたけど、結構わがままな子なのかな?
「それじゃあ純玲ちゃん」
「はい」
「………ご飯とかってどうしてるかな?」
どうやら予想してた通り、元住んでいた場所は結構遠くてこの近くの立地はあまり知らないみたいだ。
「スーパーとかコンビニの場所は知ってた方がいいよね?」
「ありがとうございます。聞ける人がいなかったので助かりました」
「……なんかタメ口って慣れないね。歳上の人と関わることが多いから妹みたい」
「妹……」
あ、また難しそうな顔してる…。
妹――子供扱いするの良くなかったかな?
「ご、ごめんね。妹って言われるのやだよね…?」
「いえ、私姉妹とかいないので新鮮で…あの、小日向さんが良ければなんですけど…」
「ん?なになに…?」
「これからご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
少しだけ照れくさそうにお辞儀をしてくるその姿がなんだか年相応で可愛らしくてついつい頭を撫でそうになってしまった自分の手を抑え……。
「大変なこととかあったら遠慮せずに頼ってね」
それから――私と純玲ちゃんの偶然の出逢いがきっかけの隣人生活がスタートした。
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