第21話

「おかえり」

陽介は笑顔で奈央を迎えた。


「病気なおってよかったね」

光希は、奈央が入院していたと思っている。


奈央は二人を見つめて立ち尽くした。


「面会に来れなくてゴメン。

日が経つに連れて『今さら』と言われそうで、今日まで待った」


陽介は、記入している途中で『離婚届』を破り捨てた。

こんな形で終わりたくない、と思ったからだ。


「許して……? くれるの……?」

「いろいろ考えた。俺も悪かったと思う。もっと話せば良かった」


「ごめんなさい……」

「会社を辞めたんだ」


奈央は責任を感じた。陽介はエリートコースに乗っていた。

何より、建築士として誇りを持って仕事をしていた。

私のせいで会社に居辛くなったのだ。


「いま、淡路島に住んでる」

瀬戸内海で一番大きな、兵庫県の島だ。


「リゾート開発が進んで建築ラッシュなんだ。

 地元の会社に就職して、ホテルの設計を任された」


光希が飛び跳ねながら言った。

「あわじしま いいよ。ママもきて」


奈央は、不安な思いで訊ねた。

「行っても……、いいの……、かな?」

「もちろん。だから迎えに来た」


「でも、お義母かあさんは……?」

「俺が言い出したら聞かないのは、よく知ってる。

 進学も就職も結婚も自分で決めたからね」


陽介はにっこり笑った。

「どれも、後悔してないし」

「あ、ありがとう……」


奈央は顔がクシャクシャになるほど泣いた。

刑務所で流した涙とは違う。


嬉し涙もこんなに出るんだ。

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