第19話

陽介には青天の霹靂だった。

信じられない話だ。


だが調べると貯金の残高は0円だ。

クローゼットは服で溢れ、鞄と靴の箱が山積みになっている。

「こんなに浪費してたのか……」


学歴や経歴は関係ない。

素朴で明るく優しい女性ひとだった。

一生一緒に暮らせると思った。

でも……、

反社会的勢力の詐欺グループに加担した妻。

知らなかった、では済まない。


「実家に戻りなさい。孫の世話はしてあげるから」

「お兄ちゃん、早く離婚してよ。恥ずかしいわ」


母親と妹の催促が止まらない。


「当然だな……」

陽介はリビングテーブルに離婚届を出した。

胸ポケットからボールペンを取り、記入を始めた。


その頃、

タワーマンションの最上階では詩織が笑っていた。


「三人目はオレオレ詐欺だって」

詩織は、茶色のトイ・プードルに話し掛けている。


「一人目は、勤務先のお金を横領して解雇されたわね。

二人目は、風俗店で働いたのがバレて離婚したのよ。

で、三人目は逮捕されたわ。バカね。たかがお受験で」


詩織は、長男と次男の受験に『お受験に不慣れな主婦』を巻き込み、

転落していく姿を面白がって見ていた。

今回のターゲットが奈央だった、という訳だ。


「本当にバカよ。入園することだけ考えてる。先は長いのに」

詩織の高笑いが続いた。

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