第17話

カフェに現れたのは40歳くらいの男性だった。

銀行員のような真面目な風貌をしている。


名刺の肩書は『介護センター所長』だった。


「仕事は高齢者の補助です」

「資格とか持ってないのですが」

「資格は必要ありません」


全国的な介護士不足で、簡単な作業は普通の主婦にお願いしている。

身体が不自由で外出できない高齢者の「お使い」や「買物」を頼みたい。

という話だった。

「御自分の買物ついでや、散歩がてらでもいいですよ」


買物ついでや、散歩がてら? 


じゃあ、お教室帰りに光希を連れて仕事ができる。

しかも他人には「仕事中」と判らない。

詩織さんと陽介にナイショでお金が稼げる。

しかも高齢者のお役に立てるなんてイイじゃない。


「よろしくお願いします」

奈央は仕事を決めた。


頼まれた買物をする。コンビニで宅配便の荷物を受け取る。

預かったキャッシュカードでお金を下ろす。


スタッフが近くまで来てるから、その車に預けたらOKだ。

あとはスタッフが、高齢者の元まで届けてくれる。

バイト料はその場で現金でくれるから助かる。


そんなことが2カ月続く間に、光希は3歳になった。


来週はついにお受験だ。

反対していた陽介も、奈央の説得に負けて、

「じゃあ、試しに受けてみたら」とお受験を認めた。


光希の成績は優秀で、塾長から「合格間違いなし」と保証された。

詩織も「絶対合格するわ」と言った。


「お受験合格は母親で決まる」

「合格に導くのは、母親の子供への愛情と協力」

つまり、失敗したら私のせい。


でも大丈夫。


光希は名門幼稚園に入園して、姑と小姑を見返せる。

お金は掛かったけど、必要経費よ。


と、思っていたら……、


お受験の前日に、奈央は警察に逮捕された。


容疑は『窃盗罪』

10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる。


奈央は初犯だが、実刑判決を受けた。

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