第16話

次の土曜日。

陽介が光希を連れて遊園地に行った。

光希の好きな『戦隊ヒーローショー』が開催されるそうだ。


「私はパス。興味ないもの」

「じゃあ、男同士で行ってくる」


久しぶりの一人だ。

ノンビリ過ごしたいが、奈央は焦っていた。

お金を稼ぐはずが、借金を作ってしまった。どうにかしなくては。


まず、テレビでよく見る『買い取り業者』が気になった。

駅近の雑居ビルの1階に、そんな看板があった。


ドキドキしながら行ってみると、スタッフは優しく丁寧だった。

初任給で買ったピアスと、祖母の形見の指輪は予想以上の価格だった。

金とプラチナが値上りしているからだ。


とはいえ、欲しい金額には まだまだ足りない。


「そちらでしたら、さらに高額になりますが」

スタッフが奈央の左手を差した。

婚約指輪と結婚指輪だ。


「いえ、結構です」

これは絶対に売れない。売りたくない。


奈央が店を出ると、店前でチラシを配っていた。

アルバイト募集広告だ。

『主婦のサイドビジネスに最適』

『家族に内緒で働けます』


「内緒で……」

いま一番必要な条件だ。

陽介と詩織に隠してお金を稼ぎたい。


書かれた番号に電話すると、すぐ面接に来て下さいと言われた。

近くのカフェで大丈夫という。


陽介と光希はまだ帰宅しない。

いい話かもしれないし、ダメなら帰ればいい。


奈央は面接に向かった。

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