第10話
光希は【2歳児クラス】の〈志望園別受験コース〉に入塾した。
美咲の娘と同じクラスだ。
「光希くんも『付属幼稚園』目指すのね」
「うん。大学まで内部進学できるから、お受験が一回で済むでしょ」
「結衣も同じよ。お互い頑張ろうね」
慣れない場所に、明るくサバサバした美咲がいるのは救われる。
奈央がいるのは、教室の隣の部屋だ。
子供から母親は見えない。親はマジックミラーから子供の様子を見る。
『母子分離』することで、子供の自立心を育てるのが狙いだ。
それにしても……、奈央はしみじみと言った。
「お受験の科目って多いね」
知能、運動、芸術、生活習慣など多種多彩だ。
「光希に芸術なんて解るのかなぁ?」
「結衣は絵が下手なのよ」
「大丈夫よ」
隣に座っていた詩織がニッコリ笑った。
「情操教育をすればいいの」
「じょうそう教育?」
「教育基本法に『幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、
豊かな情操と道徳心を培うと共に健やかな身体を養うこと』ってあるの」
奈央は真剣に話を聞いた。美咲も興味があるようだ。
「情操教育には『科学的』『道徳的』『情緒的』『美的』があるけど、
美的情操教育は、優れた作品や音楽に親しみ心を豊かにしましょう、ってこと」
上質の文化に触れることで子供の感性が豊かになり、芸術性も高まるという。
「来週バイオリンのコンサートがあるの。御一緒にいかが?」
奈央と美咲は顔を見合わせた。
美咲は行くようだ。
奈央も「行きます」と返事をした。
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