第8話

「子供の合格は御両親、特に母親で左右します」

というより……、と塾長は言葉を続けた。


「母親で決まる、と言って過言ではないでしょう」


一番恐れていた言葉だ。

美咲が「子供がバカだと私のせいになるでしょ」と言ったとき、

本質を突かれた奈央はドキッとした。


「私……、あまり……、頭は……」

うつむく奈央に、塾長はきっぱりと言った。


「違います。親の学歴や成績など関係ありません」

「えっ?」


「お受験に勝つには、子供、母親、塾の団結が必要です。

子供と塾だけ頑張っても合格しません。強固な三角形が必要です」


塾長は奈央の目を見つめた。

「合格に導くのは、母親の子供への愛情と協力です。覚悟はありますか?」


子供への愛情と協力? それは負けない。

どんな母親にも勝つ自信がある。

「あります!」

奈央は即答した。


塾長はニッコリ笑って言葉を続けた。

「当塾では定期面談で、子供の成長や問題点、塾での様子をお知らせします」


詩織が言っていた『保護者へのケア』だ。


「経験豊富な高学歴のスタッフが、個別に教育相談を行います。

さらにLIEEやメールで、保護者の不安や質問にお答えしております」

今さら? ということも、こっそり質問できるわけだ。


「面接対策、願書の書き方、家庭での教育方法も御指導致します」

奈央は面接のことまで考えてなかった。これは助かる。


「私たちは全力で御子息の合格をサポートします。

 当塾で、一緒に名門幼稚園合格を勝ち取りませんか?」


そのとき、【体験レッスン】を終えた光希が先生と戻ってきた。

「楽しかったぁ」

目がキラキラと輝いている。


『お教室を選ぶポイントは、合格実績と保護者へのケアね。

 あとは、子供が雰囲気に馴染めるか? 保護者が信頼できるか?

 で決めればいいわ』


光希は馴染んでるようだし、この塾長は信頼できる。


「如何なさいますか?」


「はい、よろしくお願いします」

奈央は入塾を申し込んだ。

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