第4話

奈央は、陽介の実家に行くのが苦痛だった。

特に家族全員が揃う日は胃が痛くなる。


清美と涼香は、長男の息子を溺愛していた。

英語とプログラミングが得意な、名門小学校の優等生だ。


「本当に賢い子ね。自慢の孫よ」

「こんな優秀な甥がいて幸せです。お義姉ねえ様」


に比べて、光希は可愛がってくれない。

「まだオムツが取れないの? 我家うちの子はみんな早かったのに」

「スプーンやフォークの使い方が下手ねぇ」


「まぁ、母親が違うから……」

と言い掛けて、わざとらしく口をふさぐ、を繰り返す。


家では「おしっこ」と言える光希も、ここではオムツが外せない。

母親の緊張が伝わるようだ。


「ところで、奈央さん」

清美が奈央を見据えて言った。

「光希は来年から幼稚園ですね。お受験の準備は始めてますの?」


言葉に詰まる奈央に代わって、陽介が答えた。

「いや、光希は公立に」


「それはダメです。奈央さん、準備してるの?」

「は、はい」

「じゃあ、お願いしますよ」


陽介は「大丈夫。気にするな」と合図してくるが、奈央は気にする。


心の底から気にしている。

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